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家路 −柳寅成−

 記憶の中の家路は
 いつも 緩やかな山の道で
 空は赤い夕焼けに染まっていなければならない

 記憶の中の家路は
 道ばたに紫の野菊が咲き
 夕陽を背負った 私と牛の
 長いかげぼうしが
 道づれでなければならない

 近くの山で採った薪を
 牛の背いっぱいに積んで道を急ぐ
 少年の頃の私
 林で雉が羽ばたく音にも驚き

 峠に差しかかると 見慣れた風景
 小川の向こうにたなびく夕げの煙
 夕焼けに映える
 村の入り口の大きなポプラ

 その木の下のあばら屋では
 オモニの温かい山菜粥が
 私を待っている

 家路
 幼い頃の家路は
 無性に寂しくて
 山鳩の鳴き声さえ哀しくて
 私は声を張りあげて歌をうたったものだ

 家路
 記憶の中の家路は
 昨日のことのように鮮やかなのに

 故郷を思いつづけるわが人生行路は
 ああ いつしか黄昏ゆく

「家路」(1988年 マダン企画)

 リュウ・インソン(1916〜1991)

 江原道洪川郡生まれ。39年明治大学法学部卒。解放後民族学校や同胞信用組合などで活動。詩集に「故郷」「ツルクイナが鳴けば」「家路」。

(選訳・康明淑)

[朝鮮新報 2008.2.12]