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〈本の紹介〉 「銃口」が架けた日韓の橋

良心と苦悩の共感

 作家の三浦綾子さんが亡くなって来年で10年になる。「氷点」「塩狩峠」など数々のベストセラーで知られる。死去する数年前から筋肉が硬化していくパーキンソン病の悪化で膝と腰が曲がり、畳に座ったり、ベッドで横になるのさえ容易なことではなかった。

 記者がお会いしたのは亡くなる4年前のことだった。座るのも痛々しい感じだったが、言葉は明晰で、揺るぎない精神力に深い感銘を受けた。

 その時、綾子さんが最も怒り、悲しんでいたのは、元「従軍慰安婦」たちの告発を無視、黙殺する日本政府や国民の態度だった。

 「閣僚の中には朝鮮を併合したのは、悪いことではなかったとがんばる人がいる。戦争は正義のためにやったという高官がいる。人の家に大砲をぶちこんで女を連れ去って、何もしていない、侵略していないと、どうしていえるのか」

 綾子さんの傍らには、献身的な看護を続けてきた、夫の光世さんがいた。「命あるかぎり、なお、終わらぬものに目をそらすことなく、作品を書き続けたいと願う彼女を支え続けていきたい」と光世さんは語っていた。

 その光世さんは妻が他界した後、遺志を継いで、精力的に活動を続けてきた。

 05年、綾子さんの最後の小説となった「銃口」を原作にした青年劇場の「銃口−教師・北森竜太の青春」ソウル公演に立ち会うために南を訪れたのもその活動の一環。

 本書は南の土を踏んだ光世さんの思い、作家の洪世和氏や批評家の金圭恒氏、映画「送還日記」の監督金東元氏、非転向長期囚の黄大権氏ら名だたる民主人士たちが演劇「銃口」を語りながら、日本と朝鮮半島の根本問題について縦横無尽に語り合っていて感動的である。

 「銃口」は、戦時中、弾圧された教師と、日本の過酷な抑圧にもめげぬ朝鮮の愛国者との出会いを見つめた作品。朝・日間の過去を克服しようとした三浦さんの渾身のメッセージを南の民主化闘争に挺身した人々がいかに受け止めたか。それはまさに良心と苦悩の共感ともよぶべき出会いとなった。(三浦光世・黄慈恵著、新日本出版社、1600円+税、TEL 03・3423・8402)(公)

[朝鮮新報 2008.2.15]