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〈朝鮮の風物−その原風景 −7−〉 オンドル

母のぬくもりと家族の団らんと

 音もなく雪の降り積もる冬の夜長に、朝鮮の子どもたちはオンドル部屋で夜なべ仕事に余念のない親たちにせがんで昔話を聞く。かつてはこんな光景がごく普通の風物として私たちの周囲にあった。あることが自然で当たり前、あたかも空気のようで、ないことなど予想することもできない存在、それがオンドルである。

 大陸性気候の影響を受ける朝鮮の冬は厳しい。オンドルはそんな厳しい冬を越すに適した暖房施設だ。床下に設置した煙道に熱を送りこんで部屋の床を暖めるという独特の暖房法は、昨今はやりの床暖房の元祖ともいうべきシステムである。その発想は、床に座る生活をする朝鮮ならではのアイデアといえよう。西欧の暖炉やペチカ、日本の囲炉裏が熱源を直接利用するのに比べ、オンドルは間接輻射熱(遠赤外線)を利用して暖をとるのが特徴である。

 このオンドルは普通、炊事用の焚き口と兼用になっていて、炊事の余熱を利用して熱を得る省エネ型暖房というすぐれものである。クドルという固有語が本来のよびかただそうだが、近年これにあてた漢字「温突」(オンドル)が海外に知られるようになり、そう呼ばれている。「クドル」の語源は「姥錘宜」(焼いた石=焙石、熱石)の変化したものという。関西方面で竃を「クド」と呼ぶが、それはこのクドルからきている。

 オンドルのルーツは古く、紀元前4〜3世紀の住居址からすでに遺構が出土しており、高句麗、高麗、朝鮮王朝時代を経て改良が重ねられたが、そのころはもっぱら一部上層階級の占有物だった。

 「李朝実録」をみると、朝鮮王朝中期の王宮ですらオンドルの設置は王の居処や一部の建物に限られていたことがわかる。それが17世紀に至ってオンドル奨励策がとられて一般住民の間にも急速に広がり、そのシステムも今日のものとほぼ同じ形態になったという。

 オンドル機能がすぐれていることは前述のほかにも、暖炉やペチカとちがい煙を出さないので室内空気が新鮮、頭寒足熱という理想的な暖房環境、すぐれた蓄熱効果、など少なくない。

 また、オンドルが温室として応用された事実や、食べ物の保温、味噌玉の発酵、薬草の乾燥、病人の治療など、多様に活用されていることも見逃せない。ただオンドルの全住民的普及で燃料となる焚き木需要が爆発的に増加し、全土で禿山化が懸念されたこともある。現在では焚き木に代わる燃料の利用でそうした危惧は解消された。オンドルは住居事情と生活環境の変化著しい現在でも、人々の変わらぬ愛着に浴していることは喜ばしい。

 ともあれオンドルという名には、どこか母のぬくもりと家族の団らんをイメージさせる懐かしさが宿っている。時おりしも冬の夜長、オンドルに見たてた部屋に子どもたちを集め、味わい深い昔話のひとくさりも語って聞かせる家族の団らんを味わってみてはいかが。(絵と文=洪永佑)

[朝鮮新報 2008.2.22]