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〈みんなの健康Q&A〉 認知症−症状とケア

 Q:「最近、なんだか忘れっぽい」「新しいことを覚えにくくなった」「もしかして、このまま呆けてしまうのでは?」とドキッとすることがあります。

 A:人間、誰しも歳をとると多少の物忘れが出てきますし、新しいことを覚えるのも昔のようにはいかなくなるものです。これは加齢に伴う生理的な変化による物忘れで、いわゆる「認知症」とは違います。脳の老化は40歳を過ぎた頃から始まると言われていますが、老化の速度や程度にはかなりの個人差がみられるものです。一般的には50歳前後で、例えば物覚えが悪くなったり、人の名前を思い出しにくくなったり、物を取りに行って何を取りに来たのかわからなくなったりすることがあります。

 Q:では、「認知症」とはどういうものなのですか?

 A:日本の平均寿命は栄養状態の改善・医療の進歩・国民皆保険制度等により順調に伸びて、男性79歳、女性では86歳と世界でもトップクラスの長寿国となっています。一方、認知症のお年寄りも年々増加し、85歳以上のお年寄りの4人に1人が認知症と言われ、社会問題となっています。物忘れと呆けは、もともとあまり区別して使われてきませんでした。しかし呆けと言われる中に、医学的に認知症という名の病気のものが含まれ、これはある程度、治療が可能であると解ってきました。健康なお年寄りの物忘れと認知症とでは、かなりはっきりとした違いがあります。まず認知症の場合は、自分の経験した事や出来事の全てをすっかり忘れてしまいます。食事をした後に何を食べたかを思い出せないのが「物忘れ」で、食べたこと自体を忘れてしまい「まだ食事をしていない」と言い出すのは「認知症」の場合が多いようです。認知症ではだんだん判断力が低下したり、自分が今どこに居るかが解らなくなったり、と進行していきます。また、自分の物忘れ自体に気付かなくなり、自覚することができなくなります。健康なお年寄りの物忘れは、あっても一部分にすぎません。確かに健康な物忘れでも頻度は多くなりますが、あくまで物忘れにとどまり、判断力の低下などへ進行することはありません。

 Q:物忘れか認知症かを見分ける方法はありますか?

 A:病気であるかを見分けるには「思い出せないことに対して、いくつかヒントを与えて答えられるか」がポイントになります。認知症は65歳以上で発症することが多いアルツハイマー型と、動脈硬化等が原因の脳血管型、その他の認知症に分けられます。アルツハイマー型とは、原因は不明ですが、脳が病的に萎縮(小さくなる)して高度の知能低下や人格の崩壊が起こる病気です。また、本人に病気だという自覚がないのが特徴です。症状はまず「物忘れ」があげられ、初期の頃は古い記憶は比較的保たれていますが、新しい出来事が覚えにくく、忘れやすいという特徴があります。また、「判断力の低下」もみられ、次第に時間、場所、人物の判断がつかなくなります。一方、脳血管型は脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、その部分の脳の働きが悪くなるために生じます。症状は、物忘れ、頭痛、めまい、耳鳴り、しびれ等がみられ、脳卒中の発作が起こるたびに段階的に悪化することが多いようです。脳血管型は、障害の場所によって、ある能力は低下しているが別の能力は比較的大丈夫というように、まだら状に低下し、記憶障害がひどくても人格や判断力は保たれていることが多いのが特徴です。

 いずれの認知症でも初期の頃は正常な部分が多く残されていますが、次第に症状が進行して物忘れがひどくなると、患者さんは悩んだり不安・うつ状態になることがあります。「うちのハルベは歳だから…」と見過ごされていると深刻なうつ状態から自殺まで考え悩む方もいます。

 Q:治療をすれば良くなりますか?

 A:認知症には治療すればある程度良くなるものから、進行が早くて治療困難なものまでいろいろなタイプがあります。認知症のタイプによってはかなり症状をコントロールができるので、できるだけ早く専門科(精神科・神経内科・心療内科)の受診をお勧めします。認知症は身近な人の対応の仕方で症状が軽くなることがあります。御飯を食べた事を忘れている患者さんは、ついさっき食べたばかりでも「食べていない」と言ったりしますが、相手にしてもらえないと被害妄想的になる場合もあります。

 Q:周りはどう接すれば良いのでしょうか。

 A:そういう場合は、患者さんに「さっき食べたでしょう?」などとすぐに否定するのではなく、「次の御飯は後これくらいでできますよ」などと上手に応じ、「自分だけのけ者にされている」と被害妄想を起こさせないようにすることが大切です。それでも不眠・被害妄想・せん妄などが強くなることがあります。症状を軽くしたり、進行を遅らせる薬も最近開発されていますので、患者さんの症状にあわせて投薬すると、ある程度は効果が期待できます。また攻撃性、焦燥感などは薬物療法で比較的改善しやすいようです。

 Q:徘徊がはじまったらどうすれば良いですか?

 A:徘徊がひどくなれば、家庭内だけでは対応しきれませんので、場合によっては短期間の入院・施設入所も考えなければならなくなるかもしれません。家庭でできる対策としては、ご老人の関心をほかに移す、玄関に張り紙をする、出入り口にセンサーを設置する、鍵をかけるなどです。野外では一緒に散歩したり、たびたび迷子になるようであれば最寄りの警察へあらかじめ連絡しておく、名前・住所・連絡先を書いたメモをポケットに入れておく、あるいは衣服に縫い付けておくなどの工夫が良いでしょう。

 Q:認知症の治療方法について教えてください。

 A:最近になって認知症の詳しい病態が明らかとなっていますが、残念ながら絶対的な予防や治療法は今現在では、まだ見いだされていません。現段階での治療としては、身体疾患の治療に加えて、脳機能改善薬(脳代謝賦活薬、脳循環改善薬、神経伝達機能調整薬)を主体とした薬物療法(睡眠薬・抗うつ薬などを使用することもあります)、リハビリテーション、生活指導などに加え、デイケアや短期入所などの社会的対策が必要となることがあります。前にも説明しましたが、認知症を完全に防ぐことはできません。現時点でできる予防法としては、食生活や適度な運動など、健康的な生活習慣が大切です。

 Q:一人の時間が長いと認知症が進行しやすいとの話も聞きますが…。

 A:他人とのコミュニケーションなど、外からの刺激も大切です。認知症予防に良いと言われている食品は、ビタミンEを多く含んでいるゴマ、緑黄色野菜、DHAが多く含まれている青魚類などです。 認知症は、老化が進むにつれて誰でもなりうる病気です。

 認知症は脳の障害によって生じる「病気」であるということを理解し、一般的な病気と同様、適切な治療を受ければ改善される症状も多い事を知りましょう。いたずらに認知症を怖がらず、まずはきちんとした知識をもつことが大切です。認知症の症状が進行すると介護も必要となり、その負担は想像する以上に大変です。家族の精神的負担もとても大きいので、自分たちだけでなんとかしようとせずに、介護ケアサービスなどを積極的に利用しましょう。

(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2008.2.27]