top_rogo.gif (16396 bytes)

〈現地レポート〉 NYフィル平壌公演 鳴り止まない拍手喝采

音楽を通じて心が一つに

 【平壌発=金志永、呉陽希記者】2月26日、東平壌大劇場で行われたニューヨーク・フィルハーモニックの公演は、朝米関係の改善と両国間の文化交流の未来を予感させる一大行事となった。興奮と感動に包まれた公演の様子を現地から報告する。

交流の第一歩

公演で指揮をとるロリン・マゼール氏 [朝鮮中央通信=朝鮮通信]

 「ニューヨーク・フィルハーモニックの公演は両国間の交流の第一歩になるでしょう。楽団の首席指揮者であるロリン・マゼール先生を紹介します」

 チマ・チョゴリに身を包んだ司会者の第一声は、今回の公演の歴史的意義を言い表しているようだった。

 100人あまりの奏者に続いて指揮者のマゼール氏が登場した。1500の客席は国内の人びとと海外同胞、海外からの来ひんで埋め尽くされた。朝鮮と米国の国旗が掲げられた舞台で両国の国歌が演奏される。立ち上がった人びとの表情には誇りが溢れていて、姿勢は普段より胸を張っているように見えた。

 ニューヨーク・フィルは1842年の創設以来、米国内と世界各国で巡回公演を行ってきた。現在、年間公演数は約180回。首席指揮者のマゼール氏は2002年9月に同フィルの音楽監督に就任した。同フィルにとって1万4589回目の公演が平壌での初公演となった。

 最初の演目はワーグナー作「ローエングリン」第3幕への前奏曲。ワーグナー歌劇の中で最も美しい作品として知られている。

 「Ladies and gentlemen!(みなさん)」

 1曲目の指揮を終えて舞台裏に退いたマゼール氏が、マイクを持って再び登場した。

 「このような素晴らしい劇場で公演できることをうれしく思う」と話すと、次曲ドボルザークの交響曲第9番「新世界から」について説明した。19世紀末、ニューヨーク・フィルがドボルザークに依頼して作られた曲で、この時代のヨーロッパの人びとの米国に対する印象を描いている。「伝統的な米国音楽のメロディーが込められている」という。1893年に初演されて以降、同フィルが演奏する代表的な曲の一つになった。

 たどたどしい朝鮮語ながら「チョウン シガン テセヨ(楽しいひとときを)」と語り、タクトを握るマゼール氏。彼の「サービス精神」に客席には笑いが広がった。しかし、タクトに合わせメロディーが奏でられると会場は一瞬で静まりかえった。

 数十分間におよぶ演奏が終わると、客席からは大きな拍手が沸き起こった。

 「世界一流オーケストラのすばらしい演奏」

 「じかに聞くと感動がこみあげてきた」

 演奏に対する感想をささやき合う聴衆の姿が会場のいたる所で見受けられた。

客席から力強い拍手

 最後の曲目は米国の著名な作曲家ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」。

 「チュルゴッケ、カムサンハセヨ(楽しく聞いてください)」

 マゼール氏は「パリのアメリカ人」という曲名にかけて、「今後、『平壌のアメリカ人』という曲も作られるかもしれない」とユーモアたっぷりに話した。

 朝鮮ではあまり知られていない曲だったが、演奏が終わると観客は力強い拍手を送った。

 指揮者の舞うようなタクトさばきは客席の目を釘付けにした。

 アンコールの1曲目、「アルルの女」(ビゼー作曲)の演奏が終わると、マゼール氏はレナード・バーンスタインについて紹介した。1958年にニューヨーク・フィルの音楽監督に就任、69年には終身名誉指揮者の称号を授与されたバーンスタインは20世紀後半のクラシック音楽界をリードしてきた巨匠だ。

 「楽団員全員の心の中には、今でも彼(バーンスタイン)に対する愛情があふれている」

 バーンスタインが作曲し、生前に何度も指揮した「キャンディード」序曲が披露された。

 「バーンスタインが指揮していると想像してみよう」。マゼール氏はこう言って、自らは舞台から退いた。

最後は「アリラン」

 アンコールの最後は「アリラン」だった。曲紹介なしで演奏が始まったが、導入部を聞いた瞬間にそれと気づいた。聴衆の顔にはこれまでの曲とは別の感情が表れていた。

 同フィルのコンサートマスターを務めるグレン・ディクテロウ氏も本公演に先だち、「アンコール曲の『アリラン』の演奏はもちろん初めて。旋律が実に美しく情緒的だ。北南朝鮮の人びとにとって意義深い曲だと聞いているが、演奏できることをうれしく思う」と話していた。

 曲が終わると聴衆はいっせいに起立して惜しみない拍手を送った。席を離れる人は誰もいなかった。

 スタンディングオベーションは約2分間続いた。演奏家たちも客席に手を振って応えた。

[朝鮮新報 2008.2.29]