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〈本の紹介〉 朝鮮近代史を駆けぬけた女性たち 32人

時代と格闘し自我を貫く

 日本帝国主義による朝鮮植民地時代の全過程を通じて、女性はもっとも直接的な被害者であった。そのうえ、朝鮮時代の男尊女卑の家父長制度の桎梏はあらゆる不平等を女性に強制してきた。男性中心の儒教イデオロギーの中で、長い年月縛られ、蔑みを受けてきた女性自身も、人間以下の所有物に甘んじて耐えることが「美徳」だと思い込まされてきたのだ。

 本書の登場人物たちはみな、その圧制の時代にあって、侵略と封建制という2重、3重の差別とたたかい、祖国の解放と女性解放のために身を捧げた不屈の女性たちである。過酷な運命に直面し、時代と格闘しながら自我を貫いた足跡が朝鮮近代史に鮮やかに刻まれている。

 取り上げられた32人は、日本でいえば、樋口一葉や平塚らいてう、与謝野晶子らが生きたほぼ同時代を、植民地の受難期ゆえにに、類まれな才能に恵まれながら、苦闘、挫折を余儀なくされた。

 たとえば、金マリア。20世紀の初頭に、日本や米国に学んだ才媛。帰国後、神社参拝を拒否したり、3.1運動では先頭にたって闘った。「国権回復と人権回復」の理想を掲げた。日帝からの民族の解放と女性の解放が同時に解決されるべきだとする揺るぎない信念を打ち出した。しかし、そのために彼女は日帝に逮捕され、残忍な拷問と性暴力によって、ほとんど仮死状態に陥った。26歳だった。3.1運動に参加した女性運動家はこのとき受けた拷問、暴行などによって、その後苦難に満ちた人生を強いられた人たちが多い。

 あるいは、朝鮮最初の女性西洋画家として輝かしい成功を収めたが、「良妻賢母」を真っ向から拒絶、女性にも自由な恋愛、結婚、離婚が認められるべきだと考え、実践した羅寰焉B家父長制に挑戦したがゆえに、社会的には抹殺された。

 本書は本紙「女性欄」で「朝鮮近代史の中の苦闘する女性たち」とのタイトルで、足掛け3年にわたって連載された記事が基になっている。このシリーズは、近現代史のなかにあって、歴史に埋もれ、正当な評価を受けていない人々を発掘し、広く紹介しようと企画したもの。

 植民地時代を経て解放、分断、そして統一へと向かう時代。しかし、いまなお、耳を澄ませば、女性たちの呻き声が歴史の奥底から聞こえてくる。その声に耳を傾け、個性的な各女性たちの生き方を照射してくれたのが、著者の呉香淑・朝大教授である。文字通り「男によって書かれた女についての歴史」ではなく、女性の視点で抑圧され、封印された過去を問い直し、朝鮮の女性史の新たな地平を切り開いたのである。日本ではいまだ類書は出版されていないという。そこに本書の新鮮な魅力があろう。

 本紙連載中から読者の反響が大きく、「いつもスクラップしています」「待ち遠しいです」の声が寄せられていた。そうした声を追い風にしてまとめられた珠玉の一冊。出版の労を取ったのが、「教科書に書かれなかった戦争シリーズ」を地道に出し続けてきた梨の木舎代表の羽田ゆみ子さんだ。82年の教科書検定問題を受けて、出版社を起こして25年。高い志と情熱に支えられた悪戦苦闘の歳月だった。

 本書は期せずして「戦争シリーズ」の50冊目にあたる。艱難辛苦の道を歩んだ女性たちを歴史の表舞台に立たせ、輝きと尊厳を取り戻す作業を境界を越えて、呉、羽田さんらが力強く担ってくれたことに深い敬意を表したい。本書を手にとった人々が、その熱い思いを共有してくれるよう切望するものである。(呉香淑著、梨の木舎、TEL 03・3291・8229、2300円+税)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2008.2.29]