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〈本の紹介〉 西宮現代史第1巻U、姫教組六十年の歩み(上、下巻)

朝鮮学校や同胞への理解刻む

 朝鮮解放後、日本に在留した多くの同胞は故郷へ、祖国へと帰国を急いだが、それでも60万人を超える同胞が残り解放後の在日朝鮮人が形成され運動も展開された。日本の近現代史、平たく言えば日本の近現代の動きを語るうえで在日朝鮮人とその活動は不可欠の要素と思う。そのような視点で「西宮現代史第1巻U」(西宮市、07年12月27日発行。ここでは「市史」と略す)と「姫教組六十年の歩み(上巻、下巻)」(姫路市教職員組合教育事業実行委員会、06年10月発行。ここでは「歩み」と略す)をみた。

 なによりも在日朝鮮人問題についてある程度のスペースを割いて扱い、歴史として記録して残すという視点や試みに敬意を表したい。在日朝鮮人の実状、活動あるいは在日朝鮮人との関係や彼らに対する理解、支持などに関して「市史」や「歩み」で銘記したことは運動史研究者の一人として喜ばしく思う。

 「市史」では、とくに「第1章第3節在日韓国・朝鮮人社会の形成とその動向」が興味深かった。ここでは兵庫県西宮地域の在日朝鮮人の形成過程を具体的な史実をあげ集約的に記し、阪神朝鮮初級学校の設立と発展、統合までを比較的詳しく述べている。朝聯阪神支部役員の写真は結成当時を物語る価値ある1枚だと思う。

 解放直後の朝鮮人の子どもたちに対する民族教育は、国語講習所のような形態で始まり、48年1月の文部省通牒(実質的な閉鎖令)とそれによる弾圧、また49年10月の朝鮮人学校閉鎖令を経て、自主学校、分校、民族学級、閉校の4種に分かれてしまう。そして朝鮮総連の結成を契機に新たな発展を遂げる。「市史」では、それらの過程を、朝聯阪神初等学院、阪神朝鮮初級学校側の資料と市側の資料を駆使して記している。

 4.24教育闘争以降、朝聯は同胞の生活状態と絡めて教育費獲得闘争を展開(国会の文部委員会でも教育費支出が確認された)した。「市史」では、西宮でも教育費獲得の要求運動が繰り広げられ、50年時の要請は学校側の事情で、53年時の再度の要請は市側により実現しなかった過程についてその経緯を整理している。朝鮮学校の分校化に反対し自主性を固守しようとする当時の同胞たちの情熱と苦悶が目に浮かぶ。また、西宮市での外国人登録法の是正に関してのさまざまな動きも関心を引く。「市史」の朝鮮人問題に関する部分は一読に値する。

 ただ執筆の方針などの制約はあると思うが、日本政府当局が在日朝鮮人に対する処遇を一向に改善しない現状にかんがみ、西宮市が地方4自治体としてやれることがなかったのか、あるいは取り組みの努力をしたができなかったことが何であったのかを記してほしかった。例えば朝鮮人の学校教育支援はもちろんのこと年金、老人介護、社会活動など市側の見解、主張などがあれば在日同胞も「外国人住民」として「市史」を畏敬をもってみることができたのではないか。

 姫教組の「歩み」は、総1552ページに及ぶ大著であり、60年間の組合史である。その中には朝鮮との関係を改善し、朝鮮の平和的統一を支持、支援し、また在日朝鮮人の民族教育に理解と協力を示した時々の見解、声明、活動なども随時に記されている。例えば94年7月7日の姫路市教職員組合「朝鮮学校の子どもたちに対する暴行」を許さない緊急集会参加者一同の決議は今読んでも目頭が熱くなる。一例にすぎないと思う。

 子どもたちの未来と朝・日の国交正常化とアジアの平和のためにいっそうの友好と親善を深めていくことの重要性を示唆する良書である。(「西宮現代史第1巻U」、西宮市発行、「姫教組六十年の歩み」(上、下巻)、姫路市教職員組合教育事業実行委員会発行)(呉圭祥、在日朝鮮人歴史研究所研究部長)

[朝鮮新報 2008.2.29]