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〈本の紹介〉 たんば色の覚書

日常の裂け目から眺めた「風景」

 作家の辺見庸さんが倒れたのは4年前。脳出血とガンに冒され、その壮絶な闘病を経て、06年、病床から復帰した。

 現在も放射線治療を受けながら旺盛な言論活動を展開中だ。その年に相次いで刊行された「自分自身への審問」(毎日新聞社刊)「いまここに在ることの恥―恥なき国の恥なき時代に」(同上)についで、07年春には辺見庸コレクション(巻数未定)1「記憶と沈黙」(同上)を、昨年10月には「たんば色の覚書」(同上)を刊行して話題を集めている。

 最新作「たんば色の覚書」には、短編小説、詩、エッセイ、論考…書き下ろし全8篇が収められている。これまで本や講演で権力、メディアへの厳しい批判を展開した辺見さんだが、今度は何気ない日常の裂け目から、ふと見た眺めを綴っていて、胸を衝かれる。

 「たんば(胆礬)」色とは、鉱物の硫酸銅の結晶が持つ半透明の青色。この息を呑むほどの美しい青色は連日、米戦略爆撃機B52が飛びかい、そこから大量の爆弾が投下されたアフガニスタンの空の色だという。「まるで天空に湖がひろがっているような青空の下で、米の新型特殊爆弾が落とされ、屍体の目玉や内臓が飛び出て二目と見られないほどになっている」とアフガンの取材体験を重ね合わせる。たんば色は「正気で人を殺す」色なのだ。

 ベトナム戦争時の米ロックバンドCCRが歌う「雨を見たかい?」は、反戦歌である。この雨は、ベトナム戦争で大量に投下された「ナパーム弾」を指す。広い範囲を焼き尽くし破壊する、極めて殺傷能力の高い殺りく兵器であり、イラク戦争でも使用された。今でも米国の保守色の強い州では放送を自粛しているのだという。しかし、日本ではこの曲が自動車のCMで流された。「残虐な死の記憶を背負った曲でさえも、大企業の資本というものは平気で呑み込む」日常の風景をそこに見る。

 人々の記憶や意識をゆがめ、イラクの死者たちを私たちの日常から閉め出して、想像からも排除する仕組み。辺見さんは「これが私たちの日常です。これが私たちの日常の文化なのです」と力説してやまない。

 自らの身体的な不自由さと内なる痛みから、私たちの日常の襞に埋もれたたくさんの死と、はるかな他者の痛みにまで想像力を膨らませていく思考。時代を剥がすペン先はますます冴え渡る。(辺見庸著、毎日新聞社、1200円+税、TEL 03・3212・0321)(粉)

[朝鮮新報 2008.2.29]