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〈本の紹介〉 帰郷

東アジア史に翻弄された生

 本書は歴史と国際政治に翻弄されたある朝鮮人学徒の生涯を綴ったもの。

 著者はソウル特派員時代に、サハリン(旧樺太)に残留されて戦後を送っている朝鮮人のことを知り、94年サハリン取材を行う過程で、一人の老朝鮮人、呉昌禄さんと出会った。呉さんは日本のかいらい国家・満州国に作られた満州建国大学の第2期生。その数奇な人生は受難の20世紀に刻まれた無数の朝鮮人の歩みにも重なるものである。呉さんは朝鮮半島南部の出身だったが、「帝国臣民」として満州建国大学に学び、学徒出陣で兵役につき、樺太の陸軍部隊で敗戦を迎えた。そして、その後サハリンに置き去りにされ、ようやく帰郷を果たしたのが祖国解放から55年後の00年だった。

 その呉さんの生涯を縦軸にして、米ソ冷戦に翻弄されつづけた東アジア史のなかで生きざるをえなかった人々の波乱万丈の生を描く。

 どのような状況下でも力強く生き抜く朝鮮民族のバイタリティーが印象的。(前川恵司著、2800円+税、三一書房、TEL 03・5433・4231)(粉)

[朝鮮新報 2008.3.3]