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NYフィル平壌訪問 朝鮮国立交響楽団 指揮者が振り返る

朝米音楽家の出会いと交感

 【平壌発=金志永記者】「朝米両国民の相互理解と信頼促進に貢献した」。朝鮮国立交響楽団の首席指揮者である金炳華さんは、米国の有名オーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックの平壌訪問(2月25〜27日)の意義についてこう語った。一方で、同フィルの訪問は朝米両国の音楽家による意義深い交流の場を提供した。数年前に改装された牡丹峰劇場では、朝米両国交響楽団による協演も行われた。今回初めて実現した両国交響楽団の出会いについて、金さんに話を聞いた。

「チュチェ交響楽」

国立交響楽団の金炳華・主席指揮者

 金さんはニューヨーク・フィルの演奏を聞きながら、朝鮮の「チュチェ交響楽」の歩みを振り返ったという。

 国立交響楽団は朝鮮解放後、最初に結成(1946年8月8日)された芸術団体だ。同楽団は1970年代に入り、金正日総書記の指導によって新たな転機を迎えた。

 60年代に朝鮮交響楽の路線問題を解決し、「チュチェ的配合管弦楽」に対する思想を提示した総書記は、70年には2管編成だった楽団を3管編成管弦楽団に発展させた。

 その時に提示された「チュチェ交響楽」の基本思想を要約すると、▼交響楽を人びとに愛されている民謡と、広く普及している名曲を編曲する方向で発展させ▼管弦楽の編成において、民族楽器を主体とし洋楽器を組み合わせるというもの。70年代に創作された管弦楽曲「青山里の野に豊作が来た」「アリラン」、交響曲「ピパダ」などは「チュチェ交響楽」の思想が具現化された作品として有名だ。

米国的色彩の表現

 国立交響楽団にはタンソ、チョッテ、セナプなどの民族木管楽器が含まれている。「青山里の野に豊作が来た」「アリラン」のような曲では、それらの楽器が奏でる音が民族的色彩をかもし出す。

 「洋楽器だけでは純粋に真似ることはできない。ニューヨーク・フィルですらも、その音を表現するのは難しいだろう」。金さんは「チュチェ交響楽」との対比の中でニューヨーク・フィルの演奏について語る。

2月26日、東平壌大劇場で行われたニューヨーク・フィルの公演 [朝鮮中央通信=朝鮮通信]

 同楽団が平壌で演奏したガーシュウィンの「パリのアメリカ人」を例に挙げると、黒人の大衆音楽形式であるブルースの演奏部分が印象的な同曲は、ヨーロッパの一般的なクラッシック音楽とは異なっている。

 「どの国の交響楽団も国ごと、民族ごとに独特な色彩があり、まったく同じではない。ガーシュウィン自身もジャズ作曲家で、ブルースやチャールストンといった米国的な色彩を管弦楽に効果的に導入した。今回のニューヨーク・フィルの公演では、『パリのアメリカ人』が最も成功した演奏ではないかと思う。同じ曲を演奏しても、やはり米国の楽団は他国の楽団より個性が際立っている」

 2000年代に入って、国立交響楽団の活動には総書記の大きな関心が向けられている。楽団がひと月に数回、指導を受けたときもあった。活動拠点である牡丹峰劇場は国家予算が投入され国内トップクラスのコンサートホールへと生まれ変わった。

 近年、朝鮮では一般の人びとも管弦楽や交響楽に接する機会が増えている。国立交響楽団の公演が定期的に開催され、テレビでも放映される。このような社会的関心の高まりの中で、ニューヨーク・フィルの公演は実現した。

牡丹峰劇場での協演

 ニューヨーク・フィルの平壌公演について海外メディアは主に、「米国文化に出会った北朝鮮」という観点から報道したが、現場では違った光景があった。

 金さんの自宅を訪問取材した米国のある記者は、「朝鮮に来て、自分が米国で聞いてきたこととは大いに異なる現実を目撃した」と心情を吐露したという。

 「彼は朝鮮の人びとがみな礼儀正しく親切だとも言った。短い滞在期間だったが、今回の訪問が米国の人びとにとって朝鮮について多少なりとも知る機会になったのではと思う」

 牡丹峰劇場で行われたニューヨーク・フィルと国立交響楽団の協演では見応えのある場面が繰り広げられた。両楽団からそれぞれ4人が出演して、メンデルスゾーン作曲の弦楽8重奏を演奏した。初顔合わせの8人は、楽器の音を一度も合わせないまま協演することになった。

 メンデルスゾーンの8重奏は30分を超える作品だ。「米国側は初対面の奏者同士の協演だから、おそらく音が合わないばかりか、たびたび演奏が中断することになるだろう、だから自分たちに与えられた時間内に1楽章でもできれば上々だ、という考えだったのだろう」と金さんは分析する。

 8重奏の後には、ロリン・マゼール指揮者による国立交響楽団の演奏が控えていた。8人に与えられた時間は限られていたため、協演は変則的な形をとった。第1楽章の演奏はうまく進んだが、米国側の提案で第2楽章を飛ばして、第3楽章を演奏することになった。

 しかし第3楽章も完璧な演奏が行われると、米国側の考えは完全に変わった。飛ばした第2楽章を演奏した後、最も難しい第4楽章に臨んだのだ。8人の弦楽器音が美しいハーモニーを奏でた。

 1−3−2−4と流れていった変則的な楽章構成と、演奏が終わって客席から起こったスタンディングオベーションは、試行錯誤を通じて築かれた朝鮮と米国の相互理解を象徴するような光景だった。

 「演奏終了後の舞台裏は大騒ぎだった。興奮したニューヨーク・フィルの奏者たちは国立交響楽団の奏者と抱き合い、『初対面同士でこのような演奏ができるなんて奇跡だ』と叫んでいた。一般的にクラシック音楽に関して、欧米はアジアを軽視する傾向がある。とくに『北朝鮮』と言えば、専門の交響楽団があることすら知らなかったようだ」

世界の中の朝鮮

 マゼール氏が国立交響楽団を指揮した曲目は、ワーグナーの「マイスタージンガー」とチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」。楽譜は米国側から送られてきたものだった。

 マゼール氏は初め、楽譜とは違う拍子でタクトを振ったという。初対面の演奏家らの実力を試したのだ。

 「指揮を終えた後、マゼール氏は相当に気分が良かったようだ。私を見て、朝鮮の交響楽団は世界的なレベルにある、朝鮮を訪問して世界音楽界の宝を発見した心情だと語った。そして、米国政府が承認すれば国立交響楽団を米国に招請するだろうとも話した」

 金さんも、国立交響楽団の「世界進出」という目標をたびたび口にする。一方で、世界を舞台にしても「朝鮮の交響楽は変わらない」と確信している。

 「『チュチェ的交響楽』はわれわれの誇り。他国の音楽家は民族楽器と洋楽器が織りなす音色を神秘的に感じるようだ」

 平壌で毎年行われる「4月の春親善芸術祝典」をはじめ、朝鮮は外国との文化交流を奨励し積極的に推進している。

 「朝鮮が門を閉ざしているというのは悪意に満ちた宣伝だ。われわれには自国のものに対する誇りと自負があるが、決して他国のものを拒否したりはしない。ニューヨーク・フィルとの出会いは本当にすばらしいものだった。今後、より多くの指揮者、演奏家たちと協演していくことが必要で、またそうなっていくと考えている」

[朝鮮新報 2008.3.12]