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〈朝鮮と日本の詩人-52-〉 上田忠男

山林丸ごと盗む日帝

 食うための盗みに短銃が鳴ったのだ。それに対して如何なることが抗議され得るか。

 またも一個の合法的な執行が静かな山林に谺する。

 終わりのない貧乏に約束せよ 松は擔のために年輪を生んだ。と、

 撃たれる粗忽は…の組職以上に醜悪ではない。

 「畜生!」敵と味方の歯ぎしりが、いつまでも樹皮を犯した。

 二本の松に…を塗ることによって火のない温突の数だけ擔軍は氾濫する。

 ゴム靴にトラックの砂塵を咬ませてなおも、生き抜くための斜辺で斃れた餓鬼の骨を踏むのだ。

 (注)擔は荷を背負うための松を組み合わせた道具。
 擔軍の盗伐は厳重な監視を潜って行われる。

 「盗伐」の全文である。「注」は詩人自身のものであり、「…」は伏字である。植民地化の貧しい農村では、凍てつく寒さをしのぎ、また食うために人々は山林で盗伐をせざるをえなかった。とはいっても、山林を丸ごと盗んだのは日本人である。第2連の「合法的な執行」とは、日警が盗伐を発見するとその場で撃ち殺すことを意味している。「松は擔のために年輪を生んだ」「−火のない温突の数だけ擔軍は氾濫する」「−斃れた餓鬼の骨を踏むのだ」などの詩句は、巧みな暗喩であり植民地的現実を告発すると同時に、生活を守るために日警と対峙する朝鮮人民の不屈の意志を表している。

 この詩は最初アンソロジー「一九三四年詩集」(1934年 前泰社刊)のなかに収められたが、「日本現代詩体系 第8巻」(1975年 河出書房新社刊)に収録されている。上田忠男は、すぐれたプロレタリア詩人にはちがいないが、経歴は書かれていない。(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.3.17]