top_rogo.gif (16396 bytes)

〈朝鮮の風物−その原風景 −8−〉 農楽戯

楽天的で歌舞好きの民族性

 世に歌と踊りを好まぬ民族はないといわれるが、朝鮮民族もその例外ではない。

 同胞の集う花見遊山は、歌と踊りで大いに盛り上がるのが常だし、同胞結婚式には参列者が総出で踊りの輪をつくる。

 小田実は朝鮮戦争時の一外国人の目撃談として、全土が廃墟のなかで北朝鮮の人々が「打ちひしがれていると思ったら、みんな元気に歌い、踊っていた。まったくあんな民族はいない」と、楽天的で歌舞好きな民族性について書いている。

 歌舞を愛する朝鮮民族の気質を端的に伝えてくれるものに、農楽戯がある。ケンガリ(鉦)を先頭に、ジン(銅鑼)、チャンゴ、プク(太鼓)、ソゴ(小鼓)、セナプ(チャルメラに似る民族管楽器)のダイナミックでリズミカルなビートにのって村人が総出で歌い踊る光景は壮観というにふさわしく、楽天的で勇壮なこの国の民衆の気性をよく表している。

 周知のように、農楽は古くから伝わる伝統的な大衆歌舞で、集団(トウレ)で農作業、労働作業、野遊、儀式などでおこなわれる代表的な群集遊戯だ。「後漢書」などに、朝鮮では5月の端午節や収穫後の旧暦10月に、全員が集合して天に祭事をおこない、昼夜飲酒し歌舞に興じたとあり、その歴史の古さがしのばれる。

 農楽は朝鮮朝時代に全国的な広がりをみせ、春には豊作祈願行事、夏には収穫期の農作業での疲れを癒すための行事、また秋には収穫を祝う部落祭、そして大晦日には1年を締めくくるメグ(古姥)行事として全国各地で盛大に催された。当初は信仰色の強い祭事的要素が濃厚だったが、次第に大衆歌舞遊戯の性格がそれを勝るようになって現在に至っている。

 これらの農楽戯は常に村人の共同体意識高め、労働を鼓舞するうえで極めて重要な役割を果たした。農民は、農楽舞とともに農作業に精進し、農楽舞を通して収穫の喜びを感受、そして連帯の絆を強めていったのである。

 ところで農楽ではケンガリ、ジン、チャンゴ、テゴ、ソゴの打楽器でとるリズムを基本とし、管楽器(セナプなど)のメロディーはどこまでもサブという音楽的特徴を持つ。つまり、打楽器だけで音楽が構成されている。打楽器だけで構成される音楽といえば、昨年も東京で公演された「ナンタ」の、まな板を打つ音、ナベ、カマなど料理器具を叩く音など、「楽音」ならぬ「非楽音」によって構成されるリズムも同じである。すなわち「ナンタ」は農楽の伝統的な音楽の構成要素を、そのまま形を変えて再現したものである。

 朝鮮民族は、リズム中心の農楽のチャンダンに触れると、なぜか音楽的DNAが覚醒し、オケチュムへの連鎖反応を誘発するのである。(絵と文=洪永佑)

[朝鮮新報 2008.3.24]