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〈朝鮮と日本の詩人-55-〉 土井大助

「人間の手を打って下さい」

 人間から生まれた人間のひとりとして/人間から生まれた人間のひとりであるはずの/日本政府の大臣さまがた/こんなことがあってもいいのでしょうか

 法務大臣さま/母親が娘の結婚式に/花束をもっていくことは/前例がないからと許されない/−というような法律論が/あってもいいのでしょうか

 外務大臣さま/旅券をくれる手続きは/人間のしあわせのためではなくて/ながいこと人間を苦しめるための/拷問の道具だ/−というような窓口事務が/あってもいいのでしょうか

 総理大臣さま/文明が発達したために20世紀後半では/海が近ければ近いほど/航行する船の安全度は/ますます低くなっていく/というような総理府統計が/あってもいいのでしょうか

 大臣さまがた/あなたがたの国税局が/税金をとりたてている人たち/日本に住む/朝鮮民主主義人民共和国の公民が/祖国へ自由に往来ができるように/すぐさま 人間の手を打ってください/大臣さまがた/あなたがたが 人間から生まれ/人間の手をもっているのでしたら/すぐさま!

 日本政府は1965年まで在日同胞に再入国許可証を発行しなかった。そのために同胞は祖国を訪問すれば日本に戻ることができなかった。この詩「人間の陳情書」(全文)は、祖国への将来の自由を勝ちとるために在日同胞がくり広げた運動に連帯を示した作品である。詩では徹底的な人道主義の観点から自由往来運動を支持している。このことは「人間」という言葉が詩語として第1連に4回、第4連に2回、最終連に3回、計9回用いることで示されている。文部、法務、外務の各大臣への抗議は、それぞれ「教科書」「法律論」「窓口事務」と特徴的に突きつけられていて、本来人道的な問題に政治的に干渉する不当性をついている。総理大臣と閣僚に対する抗議もすべて論理的に展開されていて詩人の詩的構成力の確かさを見せてくれている。

 土井大助は山形県鶴岡の生れで、東京大学法学部を卒業した。日本民主主義文学同盟員、詩人会議会員の詩人としてアンガージュマン(社会参与)の詩を書くかたわら、戯曲(「嵐の中の赤いバラ−山本宣治」他)も創作している。「詩集」(77年、青磁社)などがある。(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.4.7]