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〈本の紹介〉 心が支配される日

 国ぐるみの規模で心がコントロールされる実態。いま、熱く見つめられる「日本国民」の心。消費欲を高めるために、労務管理のために、治安のために…。「改革」の名の下に剥き出しになった弱肉強食の世界で、人々の内面が利用される様を徹底取材した著者渾身の作。

 本書は以下のような構成になっている。

 第1章は「心で生産性を高める」だ。治安対策としての心≠ニ、主としてビジネスの現場で活用される

心≠ルポしている。第2章「心を操る教育」では、教師たちの間で、話題の道徳教材「心のノート」を機軸に心≠ェ、学校現場でどう扱われているのか描いた。教育とは洗脳以外の何物でもない、などとする訳知り顔の議論が目立つ昨今だが、確かに心≠ニ教育≠ニは親和性が高い、と著者は強調する。

 心のありようが見つめられ、ある一定の方向性を帯びた場合、どのような時代が訪れることになるのだろう。第3章「支配される『日本人』の心=vでは、心の現在・過去・未来を改めて行きつ戻りつして再び、「カルト資本主義」の頃よりはるかに重大な局面に生きているのだという現実を浮き彫りにする。最終章「新自由主義が支配する心≠フ正体」に、全編を通して得た著者自身の思いの丈が綴られている。

 また、文部科学省の補助教材「心のノート」についても「あらゆる社会的な問題は心≠フありようから引き起こされるのだという誘導が子どもたちになされている」と危惧を表明しながら、京都市教委の「ジュニア日本文化検定」事業についても触れている。06年度の新学期から市内の小学校4〜6年生全員がカラフルな「検定テキスト」を受け取り、これを活用する授業や補習が始まったという。

 この「検定テキスト」は社会科学として確立していない、通俗的な内容と歴史認識があふれていて、水野直樹・京大教授、田中真人・同志社大学教授ら地元京都の歴史研究者14人が、「ジュニア日本文化検定」の中止とテキストの使用中止、回収を市教委と「推進プロジェクト」に求めている。

 史実を隠蔽し、人権を否定し、国家や企業の都合のいい記述だけを教材に選ぶやり方。こんなテキストで学ばされる子どもたちこそ、いい迷惑であろう。

 日本を席巻する「心」ブームの本質をみごとに抉り出したタイムリーな刊行。

 企画から4年、右傾化、軍事化を強める日本社会への警鐘の乱打となろう。(斎藤貴男著、筑摩書房、1700円+税、TEL 048・651・0052)(公)

[朝鮮新報 2008.4.11]