top_rogo.gif (16396 bytes)

〈本の紹介〉 塩っぱい河をわたる

開墾に明け暮れた一生

 本紙に「遺骨は叫ぶ」を執筆中の秋田県能代市に住む野添憲治さん。生まれ育った秋田や東北の地に立脚して、地域に生きるさまざまな人々の生活史やルポを書き続けてきた。その代表的な仕事をまとめた「みちのく・民の語り」(全6冊=社会評論社)については、すでに本紙でもとりあげたが、本書は東北人の開拓と移民のすさまじい軌跡をつづったもの。

 どの本も、故郷に安住できず、近代や戦後という時代に押し流されてゆく人々の抵抗の足跡が丹念に綴られている。それらは取材や史料の集積としてではなく、野添さん自身の生きた体験と切り離せないものでもあった。

 本書は、満蒙開拓から始まり、敗戦後は日本国内の開拓政策による開拓地への入植をし、最後には南米パラグアイへ移住して原始林開拓に挑んで一生を終えた一人の男の実話である。著者はこの主人公の甥にあたり、本人や本人の家族などに話を聞き書きして、登場人物の性格や日常の出来事についてとても細やかに描写している。広い土地にあこがれを抱き、少しでも生活が良くなるよう働きづめの毎日を送る日々。荒れた土地との気の遠くなるような闘い、戦争の影響、開拓人生は苦難の連続だった。開拓地への入植がこんなにも大変なものだったのかを知らされると同時に、戦前の東北地方の貧困の凄まじさなどしっかりと描写されている。また、主人公と共に開墾に明け暮れた妻の91歳の生涯にも温かいまなざしが注がれている。

 タイトルとなっている「塩っぱい河」とは、主人公が北海道や朝鮮半島に渡る際に用いられた表現。(野添憲治著、社会評論社、TEL 03・3814・3861、2300円+税)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2008.4.14]