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〈本の紹介〉 創氏改名−日本の朝鮮支配の中で

「天皇への忠誠心」植えつけ

 つい最近、日本の植民地支配の実態を内側、深部から解き明かす本が出版された。

 水野直樹氏の「創氏改名−日本の朝鮮支配の中で」である。

 「創氏改名」の語を知らない朝鮮人はほとんどいないと思う。しかし、ほとんどの理解は「朝鮮人の名前を日本風に改めさせ、日本人化を進めるもの」というものである。この理解に誤りはない。しかし、それだけでは、真の意味で日本の朝鮮植民地支配の深層を把握したことにはならないであろう。

 著者は、現在、「創氏改名」に関する入手し得る資料、研究にはほとんど眼を通して、「創氏改名」問題における植民地支配者の真の狙いと、それに付随する問題点を明らかにする。それは、いわば、民族全体が巨大な権力の搾め木にかけられ、無理矢理、身を捩らされて、悶え、呻き、叫び、抗い、号泣する、その種々相が、確実な資料によって再現されているかのようである。

 日本が朝鮮完全占領(併合)の初期から、一貫して推し進めてきた政策に朝鮮人民の日本化があるが、これが最も露骨な形をとったのは1930年代の初めごろから敗戦までの期間である。

 そもそも「朝鮮人の日本化」は、朝鮮民族性の抹殺政策が前提である。陸軍大将南次郎は、1936年8月から1942年までの6年間、朝鮮総督の座にあって朝鮮民族性抹殺政策に力をつくし、「内鮮一体化」「皇民化政策」を強行した。「皇国臣民の誓詞」斉唱、「神社参拝」「徴兵制」「強制連行・労働」「慰安婦」問題等々があるが、なかでも学校での民族語禁止と「創氏改名」はこの民族性抹殺政策の象徴とも言える。

 実は「創氏改名」問題はスムーズに行われたのではない。支配層内部からも反対があった。@は総督府警務局、つまり警察からの反対である。名前が日本人式になれば、朝鮮人と内地人(日本人)との区別がつかない、というものであり、Aは総督府内部の云わば穏健派で、この人たちは、強行すれば、民族的抵抗が強まり、統治に混乱が起こる、というものである。この反対論を押さえて「創氏改名」を実行させたのは、総督南次郎である。

 著者水野氏は、この問題の真の狙いについて、「朝鮮的な家族制度、特に父系血統に基づく宗族集団の力を弱め、日本的なイエ制度を導入して天皇への忠誠心を植えつけることである」とする。朝鮮人の名前は、本貫・姓・名の三要素からなり、父系血統に基づく家族制度は、終局のところ、祖先崇拝に至る。この伝統的な家族制度をこわし、天皇に忠誠心を植えつけるのが狙いだということだ。果たせるかな、抵抗は、民族主義者だけでなく、親日派と目される層からも起きた。朝鮮人の道知事5人のうち、2人が「創氏改名」せず免職になり、3人の有力者が自殺した。

 この本は、日本支配層の内部矛盾をはじめ、「創氏改名」に関連する、ほぼすべての問題点と、民族にとっての悲劇のさまざまを、ほとんど網羅する形で呈示している。

 朝鮮人にとって、きちっと読んでおきたい本である。(水野直樹著、岩波新書、780円+税)(琴秉洞 朝・日近代史研究者)

[朝鮮新報 2008.4.19]