〈本の紹介〉 「韓流」のうち外 |
東アジア研究の優れた一断面 本書は立命館大学コリア研究センター(徐勝所長)と南の権威ある出版社「創批」が、07年2月に共催した国際シンポジウム「開かれた東アジアに発信され、拡散する韓国文化力の可能性」の報告、講演、討論を一冊にまとめたものである。 全体の構成は、第1部「東アジアを構想する文化力」、第2部「『韓流』と日本」、第3部「『韓流』と東アジア」、第4部「『韓流』の底流」、それに「補論−韓流本の世界」であり、第1部は次の3人の講演が主軸となっている。 文芸評論家の崔元植・荷仁大学教授による「韓流、東アジア疎通の道具」。評論家の寺島実郎・日本総合研究所所長による「真の東アジア連携を求めて」。文芸評論家の白楽晴6.15宣言実践民族共同委員会南側代表「朝鮮半島の統一時代と日韓関係」。 崔元植は、韓流が中国で始まったこと、日本の韓流の濫觴が金芝河救援運動であったことを指摘し、韓流を卑俗化せず、それが華流・日流と相俟って東アジア諸国間のコミュニケーションの役割をになって、この地域の平和構築に寄与することの重要性を述べた。 寺島実郎は、日本が過去、アジア、とくに東アジアで犯した侵略行為を、ドイツがそうしたように、物心両面において徹底的に清算しないかぎり孤立すると警鐘を鳴らし、日本はアングロサクソン第一主義から脱出し、「韓流」をモメントに東アジアの一員としてこの地域の繁栄に尽力するべきだと論じた。 白楽晴は、現時点を「6.15時代=統一時代の入口」であると捉えて統一達成の可能性を明示し、ドイツともベトナムとも異なる「朝鮮半島式統一」の独自性と現実性を論証した。そして、日本が朝・日国交正常を早急に実現するようサポートすることで朝鮮の統一に貢献し、「日本社会の本当の改革とアジアへの復帰を進める」ことを願っている。 以上の3編は、直接的には韓流現象そのものを論じてはいないが、それらが本書の巻頭を飾っていること自体が、「韓流」の存在の意義を示しているといえる。 日本では、「韓流」は映画・テレビドラマ・音楽など、いうならばエンターテイメントの分野で流れ込んできた。しかし、南側から5人と在日3人、日本側から6人の識者たちの論考から成る本書をひもとけば、「韓流」が単に南の大衆文化の日本への浸透現象ではないことがよくわかる。ここで扱われているテーマは@朝鮮統一の展望A東アジアにおける日本のプレゼンスの如何Bジェンダー論議Cレイシズム=民族差別批判D東アジア共同文化の創造E中国朝鮮族の朝鮮と中国で果たした解放闘争の意義F現代韓国文学と日本文学の比較と問題点の摘出G韓日大衆文化の相互作用H右翼ナショナリズムが生む嫌韓流の危険性など、多岐にわたる。 政治・経済・歴史・文化など極めて多角的にアプローチしているため、「寄せ集め」の印象を与えそうだが、それは皮相な見方である。 本書は「韓流」という窓を通して、東アジアの国々が解決すべき喫緊の諸課題を提起しつつ、その解決方法を示すか、あるいは模索しているという意味で、詳細な注釈、多様な資料の紹介も含めて、東アジア研究のすぐれた文献となっている。(徐勝、黄盛彬、庵逧由香編、お茶の水書房、2800円+税)(辛英尚 評論家) [朝鮮新報 2008.4.19] |