〈本の紹介〉 アジア現代女性史 2008年第4号 |
戦争の傷跡あぶりだす気迫 冷戦崩壊以降90年代から現在に至るこの期間に、朝鮮半島、台湾、フィリピンなどアジア各地では、従来の冷戦イデオロギーと開発独裁の抑圧を打ち破る「民主化」が進んだ。とりわけ朝鮮半島における00年6.15北南首脳会談は、冷戦イデオロギーを打ち砕き、和解と統一を志向する指導者の構想力と決断に立脚した政治的イニシアチブによってもたらされた。 そのため6.15後に、南では、学術書であれ、文学作品であれ、冷戦下で起きた済州島4.3事件はじめ朝鮮戦争を前後して米軍とその指揮下にあった韓国軍によってなされた無差別虐殺などの実相が、次々と明らかにされて、歴史の再定義も進んだ。 これらの血ぬられた現代史を永遠の「タブー」として隠蔽、抹殺してきた国家犯罪に、ついに真相究明の光が当てられ、現代史を正しくとらえ、再定立しようとする大きな動きが始まっている。 本号の特集テーマは「朝鮮戦争と女性」。アジア現代女性史研究会創立メンバーの一人・南の研究者の金貴玉・漢陽大学教授の提案とコーディネートによって、朝鮮戦争に光をあてる特集が組まれた。昨年10月、北南首脳会談が開催され、「終わらざる戦争」たる朝鮮戦争を真に終結させようとする合意がなされた。ところが、日本のメディアが取り上げるのは依然として「拉致」や「核」だけであり、懸案の過去の清算問題や朝・日国交正常化交渉についてはほとんど無視するありさまだ。 さらに、在日朝鮮人をめぐる昨今の状況について同研究会の藤目ゆき会長は次のように指摘する。 「近年の朝鮮総連・『朝鮮』籍の在日コリアンに対する日本社会の攻撃ぶりには、日本全土が米軍(国連軍)の出撃基地となった朝鮮戦争当時(1950〜53年)はかくやと思わせられるような露骨な敵意が感じられないでしょうか」と。 本号で注目されるのは、「朝鮮戦争時の韓国軍『慰安婦』制度について」(金貴玉)であろう。金教授はこの分野の研究においては余人の追随を許さない先学として知られている。結論的に力説しているのは、「韓国において植民地主義は1945年8月15日で終わったのではなく、人的、または物的に継続されていた。むしろ米国との不平等な関係の中で、より複雑かつ内密に植民地主義は強化されてきた。したがって、継続されている植民地主義の表現として、韓国軍慰安所は存在したのであり、韓国軍慰安所制度は日本軍慰安所制度の延長だとみることができる。その上、解放以降、植民地清算ができなかった大韓民国が軍慰安所制度を設立したことは偶然と考えられない充分な蓋然性があるというほかはない」という事実だ。 そのほかにも「戦争未亡人の戦争経験と生計活動」(李林夏)、「朝鮮戦争の長い影−『越北家族』女性たちのライフストーリー」(゙恩)、「朝鮮戦争と基地の街 岩国の女性史」(藤目ゆき)など意欲作が並んだ。朝鮮戦争が人々や家族の心に刻みつけた深い傷跡、戦争に続く冷戦下において反共イデオロギーが家族関係、友人関係、男女関係にいたるあらゆる人間関係に強い影を落とし、縛りつけたかを丹念に調査しだ恩さんの論文は、説得力がある。 軍事主義と反共イデオロギー、そして家父長制と結合した冷戦の記憶。朝鮮戦争終結から55年を経て、被害者たちの壮絶な体験をを炙りだそうとする女性研究者たちの静かな気迫に打たれる。(「アジア現代女性史」編集委員会、問い合わせ=大阪大学箕面キャンパス、藤目研究室、TEL 072・730・5205)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2008.4.19] |