〈本の紹介〉 松本清張への召集令状 |
権力の不正への憤り 作家・松本清張。没後16年経っても、ブームにかげりはない。09年の生誕100年記念に向けて大々的な記念行事が予定されている。 40歳を過ぎて小説を書き始め、不断の向上心と強じんな精神力で新たな分野を開拓していった。テーマは広大で、フィクション、ノンフィクション、ミステリー小説群、評伝、古代史、現代史…。そのいずれの分野においても独自の世界を構築した。特筆されるのは、占領時代の暗部に迫った「日本の黒い霧」シリーズ。下山事件、帝銀事件などを徹底的な調査によって、来たるべき朝鮮戦争へと向かう謀略と推定したことだ。 「いったい、松本清張の魅力は何であろうか」。本書は著者の担当編集者時代の私的メモを踏まえ、その問いに応えようとした異色作であり、清張ファンとしては見逃せない一冊。 タイトルの通り、貧しい印刷工=若き日の清張に届いた一通の召集令状。兵隊にとられた中年兵が、戦死の予感に震えながら、上級兵たちの凄惨な私的制裁にさらされる。その暴力に彼らの鬱憤ばらし、腹いせ、意趣返しといった動機があるとするなら、その理不尽な暴力を可能にする国家権力とは何なのか。清張作品「遠い接近」には、召集令状にひそむ権力の不正や腐敗のカラクリへの激しい憤りがこめられているというのだ。 複雑怪奇な事件が次から次へと起きる現代。「もし、今、清張ありせば」と懐かしむ読者にぜひ勧めたい。(森史朗著、文春文庫、890円+税)(粉) [朝鮮新報 2008.4.19] |