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済州島4.3事件60周年の東京公演で自作詩を朗読する金氏 |
戊子年の冬でしたね
なんの罪もない父さんの
父さんを奪っていった
刀の風に突き刺され
水平線を越えてった
風のカラスのように
父さんは 父さんの長男
兄さんの手を ぎゅっと握って
さらさらと 雪の降る夜
漢拏山を背に
夜の海に消えていきました
出産を待つ母さんの手を握り
生きてさえいれば
きっと会える日が来ると
母さんの腹の中で
世の中の事も知らない
足を動かすだけの 二番目を頼む
という言葉を残し
密航船に身体をすべらし
玄界灘を越えていった その年の冬
陽のあたたかい
冬至月の末日
父さんも 兄さんもいない
近所のサムシンハルモニ(産婆)の
手を借りて
父さんの二番目の息子
兄さんの弟は
この世に産まれ出て
一杯のワカメ汁さえ
飲めなかった母さんは
父さんの行方を問い詰める
討伐隊の手で
髪をつかまれ
どこかに連れてかれた後
今の今まで消息知れず
一体、どうしてなのか
兄さんも 父さんも
まったく手がかりがありません
兄さん
また、戊子年がめぐってきました
四.三に生まれた
私の年も もう六〇
死ねずに生きてきた
六〇年の歳月です 逝った日
逝った時間もわからない 母さんは
生まれた日
生まれた時間に香を焚き
祭祀を行います
兄さんの父さん
一度も顔を見たことのない
恋しい父さんは
どこにいらっしゃいますか
会いたい兄さんは今
どんな空の下に
いらっしゃるのでしょう
めぐりくる母さんの忌日
兄さん
漢拏山の胸元に
一度いらっしゃらないと
いや、忌日でなくとも
かまいません
春ならば
黄色い菜の花が
兄さんを迎えます 冬ならば
真っ赤な椿が
兄さんを迎えるでしょう
母さんの胸のような漢拏山が
兄さんを 包み込むでしょう
戊子年が過ぎる前に
兄さん
必ず会いましょう
これまでできなかった思い出話を
語り合わないと
これからは
これからは一緒に歩まないと
二度と離れたら
駄目ですよ
そうでしょう、兄さん?
兄さん! (金秀烈、詩人・済州民芸総) [朝鮮新報
2008.4.28]
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