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「ル・モンド」週刊国際版が論評 「イラク戦争の袋小路、未曾有の悲劇」

 3月29日発行の週刊「ル・モンド」国際版に、「イラク戦争の5年間−袋小路」という記事があり、興味を惹かれたので紹介したいと思う。

 記事によると、イラク駐留米軍15万5000人の兵力を率いる総司令官デイビッド・ペトラウスは、イラク政府に対して非常に不満を持っているという。なぜなら、新しく軍を創設した政府が、国民的和解のための政治的、法的対策を講じる努力をしないばかりか、2カ月前から再び激化した戦闘に悩まされ、08年末まで少なくとも13万5000人の兵力の維持を米国に強く訴えているからだという(費用はもちろん米国の負担である)。

 イラク侵攻後5年間に、米兵15万人、英兵6万人(現在は5000人以下)が投入されたが、ネオコンの「不可能な夢」−武力によるアラブ世界へのデモクラシーの移植とイスラエルの安全強化−は実現せず米国は全くの袋小路に陥っているという。

 記事によると4000人の米兵が死亡し、2万9000人の兵士が負傷したにもかかわらず、米国はイラクをコントロールできないばかりか、バグダッド中心部のいわゆる「グリーンゾーン」(超要塞化された区域)の安全さえも時におぼつかないという。25万人のイラク人警察と16万人のイラク人兵士を訓練し、装備させるのに200億ドル(日本円で約2兆円超)を費やした。5年間の他の戦費と合わせればその額は想像を絶する。

 米国の必死の努力にもかかわらず、当のイラク軍将校らは2012年までに自力で国内の安全を確保することは難しく、さらに国境の安全の確保は少なくとも2018年までは不可能だと言っているそうである。それまで米軍の支えが必要なのだということである。米軍はまさに疲れきっている。

 記事は、ブッシュ政権がその嘘によって米国のイメージと信用を失墜させたという。油田の整備と開発に数十億ドルを投入したにもかかわらず、2003年には世界第3位だったイラクの産油量は未だ回復せず、この5年間で石油の価格は4倍に跳ね上がった。イラクでは、水も電気も欠乏し、横領と腐敗がはびこっているという。中東にデモクラシーを根付かせ、イスラエルを守るために全力を傾けたブッシュとネオコンの戦争は5年を経た現在、全くの袋小路どころか、未曾有の悲劇に陥っている。

ジェノサイド/カオス

 同誌は、「米国はこの5年間に、5000億ドル(50兆円超)を費やして40万人のイラク人を殺害した」と指摘しながら、イラクでは、440万人が家を追われ、200万人が隣国に逃れている。人口2500〜2600万人の4分の3が職を失って困窮している。まさに悲惨としか言いようがないが、この現実をブッシュの後継者たちはどう見ているのだろうかと疑問を投げかけた。

 そして記事は、共和党の大統領候補マケインは、必要なら米国は百年でもイラクに留まるべきだと主張しており、ヒラリー・クリントンは段階的撤退を表明しているものの、撤退の最終期限については言及していない、オバマだけが完全撤退を主張しているものの、米軍撤退後の混乱をどう収拾するのだろうか? と指摘した。

 戦争によってイラク国内のみならず、地域の紛争や宗派間の憎悪が激しさを増している。イラク北部ではトルコ軍とクルド人が戦闘を始め、南部ではシーア派の民兵らが拉致と殺人を繰り返している。そして記事は、6000人ともいわれるアルカイダがそのテロによってこの戦争を維持しているのではなく、まさに流された血の海そのものが全てのコミュニティーを争いに駆り立てていると結んでいる。(訳出=河在龍・朝鮮大学校教授)

[朝鮮新報 2008.5.23]