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〈本の紹介〉 人間の砦−元朝鮮女子挺身隊・ある遺族との交流

真実を叫び続ける人間の魂

 本書は、「元三菱重工名古屋航空機製作所道徳工場(愛知県)で軍用機の生産に従事させられた『朝鮮半島女子挺身隊勤労奉仕隊』の少女たちの歩んだ過酷な運命と戦後補償をめぐる裁判闘争の動きを、一人の日本人として、私の韓国・朝鮮とのかかわりの中で、自らの生きざまを通して描き出したもの」(はじめに)である。この問題とのかかわりあいから、05年2月の名古屋高裁判決を含む現在に至るまでの著者の20年にわたる歩みをまとめたものだが、その活動は今も継続中なので中間報告書とも言える。

 また、本書は、道徳工場に連行された「女子挺身隊」とその周辺を追いながら、懇切ていねいに朝鮮問題、在日朝鮮人問題に関して多角的な解説を加えて、真っ当な理解を与えようとしている啓蒙書でもある。以下4点にわたって感想の一端を記す。

 何よりも、本書を通して植民地支配を受けた民族の悲痛を新たにした。13〜14歳の少女たちを「働きながら学校に行ける」「腹いっぱいに飯が食える」などとうそをついて連れ出して、過酷な労働に従事させ、戦争終結後は、一銭の賃金も支払わずに路頭に放置した日本国家と企業。戦時も戦後も一生涯苦しみを背負って生きてきた彼女たちの過酷な半生にいま、あらためて思いをはせる。

 2点目は、朝鮮人を強制連行、強制労働させた日本政府と大企業に対する「怒り」である。日本政府は「日韓条約で解決済み」、企業の当事者は、戦前の三菱重工と現在の三菱重工は別会社であると突っぱねる。戦後補償問題は、国家や企業に拒否されると一縷の望みをかけて裁判所に持ち込まれる。しかし、その裁判所もまた国家や大企業の代弁人のごとき判決に終始する有様である。本書にあるように「日韓条約」(請求権)に個人補償に関して云々された部分があるのであろうか。ないにもかかわらず、名古屋高裁は理不尽な判決を出していると本書は指摘している。正鵠を得ている。日本の司法府に強い憤りを覚える。

 3点目は、「愛知県朝鮮人強制連行歴史調査班」と約50人からなる弁護団、約千人からなる支援する会の人々への敬意である。20年近くにわたるそのエネルギッシュな活動と気概に胸を打たれる。

 4点目は、このような類書の読後感にありがちな「重い気持ち」より、本書は読者に「希望」や「展望」を与えてくれると思う。被告は国家であり大企業である、どちらもつかみどころのない怪物である、この闘いは戦争への憎しみをもった人間の砦なのだと確信していた、と著者はいう。この点が活動に携わったすべての人々の共通の原点であると思う。

 また、彼らは今もひるむことなく、被告企業の本社がある駅前で、毎週金曜日に街頭活動を地道に続けている。「拉致はどうしてくれるんだ!」と睨みつけてきた男に「こういう問題をはやく解決することこそ拉致問題解決の最善の近道」と答えを返した著者の勇気ある姿勢。

 広くすすめたい良書であるが、初歩的な間違い(例えば土地改革の年度)や朝鮮における解放後の諸問題をめぐっては見解を異にする点があることを指摘しておきたい。(山川修平著、三一書房、2000円+税)(呉圭祥 在日朝鮮人歴史研究所研究部長)

[朝鮮新報 2008.6.2]