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〈本の紹介〉 「ルポ 貧困大国アメリカ」

極端な民営化の果ては…

 日本ではいま、約80年前に発表された小林多喜二の「蟹工船」がブームだという。本屋をのぞくと「資本論」も平積みされていた。

 だがそれも、広告産業が火を付けたような気もしないではない。読書も個人の嗜好もすべて市場が握る新自由主義経済。ゆめゆめ、警戒を怠ってはならないのである。

 本書は、「サブプライムローン」をはじめ米国の低所得層を直撃する「貧困ビジネス」などの実態にメスを入れ、米国社会のすみずみから噴出している問題ひとつひとつを検証した意欲作。そこから浮かびあがってくるのは、国境、人種、宗教、性別、年齢などあらゆるカテゴリーを越えて、世界を二極化している格差構造とそれをむしろ糧として回り続けるマーケットの存在、国家単位の世界観を越える暴走型市場原理システムの恐ろしい姿である。

 そこでは「弱者」がハゲタカ金融資本に食いものにされ、人間らしく生きるための生存権を奪われた挙句、ぼろ雑巾のように使い捨てにされていく。

 その米国を後追いした結果、日本でも同様の現象が起きている。過労死やリストラの犠牲となって、年間3万人以上の人々が自殺するという痛ましい現実。しかも、それが約10年も続いているのだ。そして、「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」「医療制度の崩壊」「派遣社員」「教育格差」などの実態…。それらは日本の米国の真似、つまり小泉、安倍内閣の下で進められた民営化の結果生まれたものであることを、本書は説得力を持って伝えてくれる。

 本書はまた、民衆が抵抗する武器としてのメディアの中立性についても強調する。9.11以降、米政府はベトナム戦争の教訓として、メディアを徹底的に管理することに成功した。個人情報の一元化と大資本のメディアによる戦時下の偏向報道がいかに米国民を戦争へと熱狂させたかは、日本の現状を映し出す合わせ鏡でもある。

 世界を知るうえで幅広い視野とアンテナを与えてくれる一冊。(堤未果著、岩波新書、700円+税)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2008.6.9]