〈民族楽器のルーツをたどる ウリナラの楽器 C〉 奚琴 |
金、石など八つの材料で製造 女性好みの哀切あふれる音色
今回は奚琴(해금)を紹介しよう。 朝鮮では「ヘグム」(혜금)、または「ケグム」と呼ばれ、中国・元朝の時代には「胡弓」と呼ばれた擦絃楽器。地域によりその呼称を「エングム」または楽器音をまねた「カンカンイ」や「カンケンイ」と呼ばれたりもする。タイでは「ソードゥァン」、日本では「胡弓」、中国では「二胡」と呼ぶ。 奚琴は本来、中央アジア系統の楽器であったが、唐の時代に中国を経てわが国へ渡って来たとされている。現在の奚琴は高麗睿宗9年(1114年)に、宋の国から収入された物を改良した楽器である。 文獻通考によると、秦の郷土が奚琴の原型とされているが、奚琴は唐の時代、中国北部に住んでいた遊牧民族の「奚」部族が好んだ楽器とされている。奚琴の名はどうもこの「奚」部族と関連があるように思えるが、定かではない。 二本の絃の間に竹の棒を入れて引いて音をだす奚琴は、民間でも親しまれた楽器のようだ。
わが国で奚琴ははじめ郷楽に使われていたが、高麗時代以降、唐楽の合奏にも使われるようになった。朝鮮王朝中期には調絃や演奏法が改められ、それが今日まで伝えられている。 切なく悲しげな音色がこの楽器の特徴で、最近では南朝鮮で女性に人気が高いと聞く。私も心惹かれる一人である。楽器もコンパクトで軽く、持ち歩くのも簡単だ。 奚琴は、金、石、絲、竹、匏、土、革、木の八音、すなわち楽器を作る八つの材料をすべて使い作られる。楽器本体には金、絲、竹、匏、木、そしてくりぬかれた筒の中には石(中に塗られた石澗)、弓の部分では革や土(松脂)が使われている また、奚琴は三絃六角(楽器編成のひとつ)で使われる唯一の弦楽器であると共に、正楽や散調そして最近では創作音楽など演奏範囲も広くなり、南朝鮮の大河ドラマではなじみの楽器になっている。
1960年代からは朝鮮で改良が続けられ、私も形や大きさ、共鳴筒の厚さなど何度か変わった楽器を手にしたが、ここ数年で定着した感じがする。 本来の奚琴は絹糸を二本張り、胡弓のように演奏するが、改良されてからは絃も鉄線を使い、数は四本に増え、奏法はバイオリンのように弦の上から弓で引いて音を出すようになった。 種類も音域により、小奚琴、中奚琴、大奚琴、低奚琴と四種類に増え、西洋楽器でいうなら、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスを意識したと言えるが、これは西洋音楽のほか多様な音楽を奏でるためである。音色は澄んでいてやわらかい。 楽器の頭の部分はかえでの木やオノオレカンバを使い、糸巻き部分は黒檀や茶檀も使う他、共鳴版などは桐の木、エゾマツなどを使う。弓の毛はバイオリン同様馬の尾を要る。椅子に座り専用の台を楽器に固定し演奏するが、音域も広く古典音楽から民俗音楽、その他さまざまな音楽にまで幅広く用いられる。音を出すまで少し苦労するが、親しむ中できっと心に残る音色が生まれるに違いない。(康明姫・民族音楽資料室) □ メモ…三絃六角―三絃といわれるコムンゴ、伽倻琴、ビパと、六角といわれるピリ2、チョッテ1、奚琴1、チャンゴ1、プク1の演奏編成を言う。現在では六角のみで演奏されるが、主に舞踊伴奏で使われ、場合により楽器の種類を増やしたり編成人数を多少変えたりもする。 [朝鮮新報 2008.6.27] |