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夏休みに本を読もう 在日コリアン詩にも注目 「慰安婦」や侵略戦争テーマに

「平和」考える詩や絵本

佐川亜紀さん

 子どもを含め、たくさんの人たちに平和の大切さを考えてもらおうと活動する作家・翻訳家たちがいる。詩人の佐川亜紀さんと東京純心女子大学・大竹聖美准教授(児童文化論/絵本論)もその一人。

 朝鮮半島と日本に暮らす人々の、真の平和な未来を願う2人が手がけた作品を、夏休みに読んでみてはどうだろう。

 詩人の佐川亜紀さんの作品に「六月の乳の風」(第三詩集「返信」収録/土曜美術社出版販売刊)というのがある。「パラム パラム(風)」という美しいリフレインをもつ詩には、「かかえきれないほどの悲しみ」と「ひとすじの夢」がある。朝鮮語の母音そして母の歴史を鋭く表現した作品だ。そこには塗炭の苦しみを味わった隣人への深い思いやりと平和への切実な願いが込められている。

 「奪われた花嫁 殺された花婿 死んだ子供/湖の底で 炭鉱で 戦場に 被爆地に」「赤ん坊だったあらゆるものの唇に/命のかなたから風が吹きます/ひとすじの夢をふくませるように」

 佐川さんが朝鮮問題に関心を寄せるきっかけとなったのは、74年の詩人・金芝河の死刑宣告だった。

「在日コリアン詩選集1916〜2004年」(土曜美術社出版販売刊) TEL 03・5285・0730)

 「当時私が通う大学では、金芝河・金大中救出のための100万人署名運動が展開されていた。金芝河の投獄に対して、サルトルや大江健三郎、鶴見俊輔などによる国際的釈放要求の声が沸きあがっていた。言論に対する死刑宣告はあまりにきつすぎる、それが隣国の実情だとは」という驚きと怒りが活動の原点にある。ベトナムの反戦運動や横須賀の反基地闘争に関わる人々とも知り合った。

 在日朝鮮人の歴史は、第一詩集「死者を再び孕む夢」(詩学社)に収録されている、自作詩「湖の底で」という作品を書く過程で学んだ。

 「水道から唇をぬらし私の身体を流れる水/毎日横浜と川崎の人々をうるおす水/最新のエレクトロニクスを動かす電気/『1千kw発電能力当り、一人死ぬのが当時の見方』/『水には血が流れている』/この湖をダムを造った朝鮮人のあなたが/ない/あなたは確かに/存在したのに/ない/やっと建てた慰霊碑にもない/あったとしてもあなたの名ではない/『日本名』という呼び名」

 この詩は、相模湖ダム(神奈川県)をモチーフに、ダム建設のために強制連行された多くの朝鮮人犠牲者を描いたもの。また、05年には「在日コリアン詩選集1916年〜2004年」を編さんした。

 「日本と朝鮮の詩人たちは『人権』や『平和』を求め、過去を省み、共生世界への想像力を培ってきた。韓国が民主化し情報化社会になった今、『韓流』という新しい潮流がアジアを席巻している。国境を越えたファンたちのつながりも深まっている。以前の民主化闘争の支援だけではつながりえなかった大衆が、俳優に熱狂したり、朝鮮料理が美と健康にいいとブームになったりして、日本人の朝鮮観にも少し変化が現れた」

大竹聖美さん

 しかし、政治社会面では相変わらず戦中の言説とほとんど同じ論調が堂々とまかり通っている。今後も朝鮮の詩と長く関わっていきたいと考える彼女は、「約百年前、侵略戦争にひた走っていったとき、朝鮮支配の間違いが根本的問題だったことを考えれば、危うい状況は続いている」と話を結んだ。

 現在、子どもたちに平和の大切さを考えてもらおうと、日本、中国、南朝鮮の絵本作家たちが協力して絵本を作る計画が進められている。

 「平和絵本」を作ろうと言い出したのは、「とべバッタ」の作者の田島征三さん。田島さんは、米国が始めたイラク戦争に日本が自衛隊を派遣したことに反対して、日本の絵本作家たちが平和を願うだけでなくアクションをおこそうと行動した。06年、「こいぬのうんち」の作者として知られる南朝鮮の代表的な絵本作家、チョン・スンガクさんと対談し、「平和について考えた絵本を中国や韓国の作家たちと作りたい」と持ちかけた。現在、12人の絵本作家たちが「慰安婦」問題や侵略戦争など、それぞれが考える平和の絵本作りに取り組んでいる。大竹聖美さんはその翻訳に当たる。

 彼女と朝鮮児童文学との出会いは小学校高学年の頃。図書館で「朝鮮民話集」を見つけたのがきっかけだった。「素直に楽しみ、好きだと思った。高校時代も朝鮮美術に惹かれた。周りが皆、欧米の美術が良いというとき、私は朝鮮の美が気になっていた。何かアンテナに引っかかるものがあったのでしょうね」。

 大学生のとき偶然観たオリンピックの中継で、「時差もない隣の国」の存在に大きな衝撃を受けた。「なぜこんなに近いのに、こんなにも知らないのか」と。英国やドイツの話は知っていても、朝鮮半島のそれについてはほとんど何も知らなかった。ハングルという文字を持ち、優れた文化を持っていることすら。

 98年から6年間ソウルに留学。南朝鮮社会が劇的に変化していく姿を目の当たりにした。「386世代」の作家たちと出会い、「プリチャッキ(根っ子探し)」と呼ばれる民族文化のルーツを探る丹念な作業に情熱を傾ける作家たちが、子どもの文学に取り組む姿勢とバイタリティーに魅了された。そして04年には日本で、大竹さんの選書・翻訳・解説による「韓国の絵本10選」(アートン刊)が刊行され注目を集めた。

 「絵本はわかりやすい子どものための博物館。大人が教養を高めるための教材としても効果的だ。韓国の絵本には表面的なかわいさやおもしろさではない、民族文化に根づいた家族と人間のつながりや生きる力を描いた力強いものがある。伝える意義は大きい」

 絵本を通じて朝鮮半島の人々への理解を深めてもらうための平和の歩みは、今後もまだまだ続いていく。(金潤順記者)

[朝鮮新報 2008.7.25]