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〈本の紹介〉 老いを照らす

一人でも、二人でも、抗いの声を

 1922年生まれ、88歳の瀬戸内寂聴さんは、今もパワー全開で、活動中である。近年、「源氏物語現代語訳」を完成させたのも記憶に新しいが、岩手県浄法寺町の天台寺で、月一回の「青空法話」を続けてきた。もう20年以上も行われてきたこの法話に、多いときには1万5000人以上の人々が駆けつけてくるというから壮観である。

 本書のタイトルは「老いを照らす」であるが、いわゆる功成り遂げた人の自慢話の類ではない。女性として、時代の制約をはねのけ、厳しい社会のバッシングに抗い続けて生きてきた著者の生き方が投影された優れたエッセイ集である。

 瀬戸内さんは作家、講演活動の傍ら、オウム元信徒や連合赤軍事件の被告らとの交流、第一次湾岸戦争、アフガン報復攻撃では停戦祈願の断食、医薬品を自らイラクに運ぶといった社会活動と反戦発言を精力的に続けてきた。03年のイラク戦争に際しても、新聞に戦争反対の意見広告を出すなど旺盛な活動に衰えはみえない。

 著者がとくに強調するのは、「戦争やテロに反対すること」。「殺スナカレ、殺サセルナカレ」という教えを奉じる仏教徒としての義務だと語る。「戦争の犠牲者は、兵隊たちであり、老人、女、子供であり、常に弱者です。一日でも、一時間でも長引けば、それだけ人は殺され、負傷します」と。

 「戦争を起こさない、起きた戦争を止める」ことを自らの義務と課す著者は、日本の仏教者が先の戦争の際に反対の声を上げなかったことを「恥の歴史」だと振り返る。

 しかし、大きな流れのなかで、無力感に陥るのではなく、著者は「一人でも二人でも、抗いの声を上げたということが、後の歴史に、ほんのかすかかもしれないけれども、確実に足跡を残し、…いわば歴史の歯止めを作っていくのです」と希望をつなぐのだ。

 「悪いことは悪いと、声をあげ、立ち上がり、腕を組んで、悪い歴史の流れの堰となろう」とする著者の言葉が心に響く。(瀬戸内寂聴著、朝日新書、720円+税、TEL 03・3545・0131)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2008.8.1]