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〈朝鮮と日本の詩人-63-〉 中浜哲

髭の凍る冬の朝うたう

 髭の凍る冬の晨だった
 京城の裏長屋を借りて住んで居た
 「久さん」は漢江へスケートと魚釣りを見に出掛けた
 「鉄」は朝鮮芝居の楽屋へ潜り込んで行った

 オンドルは無かったが
 アンカは有った
 三人は其日の収穫を語り合った
 朝鮮の夜は重苦しかった

 この詩は、全2部15連65行から成る「何故へ行く?」のうち、第1部の4連と5連である。「久さん」は和田久太郎のことである。彼は1920年代の無政府主義者で、大杉栄殺害の報復として、関東大震災時の戒厳司令官福田雅太郎を狙撃して未遂、逮捕され獄中で縊死した。著書に「獄中から」がある。「大さん」は古田大二郎で同じ無政府主義者。早大卒業後中浜哲(鉄とも)らとギロチン社を組織し、天皇制に反対してたたかったが、運動資金の獲得に失敗して捕われ、市ヶ谷刑務所で死刑にされた。遺稿集「死刑囚の思い出」がある。

 「鉄」は、この詩を書いた中浜哲(本名富岡誓)で、1897年に福岡県に生まれ、早大を中退した。1921年に大阪で「自由人連盟」に参加して無政府運動の指導者の一人となったが、26年に捕われて刑死した。中浜哲は日本の数少ないアナーキスト詩人として「メーデーの正体」「どん底」「自由の被告」など数10編の作品を残している。22年に、当時信越電力会社が建設したダム工事で朝鮮人労働者が犠牲になった「信濃川虐殺事件」を実地調査して、簡明なルポ「信越の監獄部屋から」を発表した。

 引用した詩は、3人の無政府主義者が朝鮮に身を避けていた時期を描いたもので、「朝鮮の夜は重苦しかった」という詩行が植民地的現実を告発している。「中浜哲詩文集」(黒色戦線社・1992年刊)に収録されている。(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.8.4]