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〈みんなの健康Q&A〉 閉塞性動脈硬化症のアフェレシス療法

 Q:以前、本欄で閉塞性動脈硬化症(ASO)についてお話をうかがったことがありましたが、大きな反響がありました。

 A:ASOにかぎらず、動脈硬化性疾患は今や世間の最大関心事といえます。その予防のためだけでなく、生じてしまった動脈硬化病変がそれ以上悪化しないよう、また少しでも改善するよう、さまざまな治療法が考案されています。その代表的な方法がLDLアフェレシス(LDLa)です。

 Q:聞きなれない治療法ですが、どのようなものですか。

 A:動脈硬化に大きく関与するコレステロールは水に溶けないのでリポ蛋白という粒子に含まれて血液中に存在しますが、そのリポ蛋白のひとつがLDLで低比重リポ蛋白を意味します。アフェレシスというのは元々は「分離する、分ける」という意味を持つ言葉で、血液浄化療法のひとつとして考案され、臨床医学の現場で確立されてきた治療法です。患者の血液中にある病因物質または病因関連物質を選択的に取り除くことで病気の改善を図ろうとするもので、LDLaでは動脈硬化の主因であるLDLコレステロールが除去対象になります。LDLコレステロールは俗に「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁にたまって血管内をせまくする最大の原因物質としてあまりにも有名です。LDLコレステロールが極めて高いため狭心症や心筋梗塞を若年から発症する「家族性高コレステロール血症」という遺伝性疾患があり、これに対するLDL低下療法としてLDLaが最初に用いられました。ASOにおいてもこのLDLを選択的にいっきに血液中から取り除けば症状が改善するのではないかと期待され、LDLaが試みられるようになりました。

 Q:具体的な方法について教えてください。

 A:施行にあたっては体外循環のための特殊な回路が準備されます。患者血管から血液を持続的に回路に流し、まず血漿分離器を通して血漿と血球を分離します。血漿というのは、簡単にいえば、赤血球や白血球といった血液中の固体成分を取り除いた水分の成分と考えてください。この血漿の中にLDLコレステロールが含まれているので、筒型のLDL選択的吸着器に血漿を灌流させてLDLの吸着除去を行うというしくみです。LDLが除去された血漿は血球成分と合わされ再び患者に返されます。脱血から返血という一連の操作を連続的に2〜3時間行い、3〜5リットルの血漿を処理します。治療施行中は患者には脱血と返血のための注射針が2カ所に留置されていますが、横になっているだけで全身的にはとくに苦痛を感じません。

 Q:アフェレシス治療による実際の効果はどうでしょうか。

 A:この方法はLDL除去が治療の目的ではあるのですが、実はそれに伴ってさまざまな血液因子が同時に改善されるということがわかっています。

 即効的な効果としては、血液・血漿粘度が低下し、赤血球変形能が改善して血液がよどみなく流れやすくなります。また、各種凝固系因子の低下により血液が血管内壁にこびりつきにくくなります。さらに、血管壁の収縮・拡張に関与するさまざまな物質が影響を受け血管拡張が促進され、血管にたまりやすいLDLが少なくなり血管内皮機能が改善されます。

 LDLaを反復的に施行することによる持続的な効果としては、動脈硬化病変の発症と進展の抑制、側副血行路の発達などがあげられています。

 Q:臨床的にはASOの諸症状はどの程度改善・軽減されますか。

 A:たくさんの研究データがありますが、間歇性跛行は80%以上、潰瘍は70%以上、安静時疼痛は50%以上の症例に改善が認められたとする報告があります。そのほかにも、足の冷感、しびれ、重たい感じなどといった自覚症状の軽減も多くの調査・研究報告で確認されています。

 Q:そんなに効果のある治療法なら多くの患者にすすめられますね。

 A:現状では、ASOに対するLDLa療法は3カ月間の期間に10回を限度として保険上は算定可能となっています。患者の条件として、まず間歇性跛行がある、薬物療法を行っても血中総コレステロール値220mg/dlまたはLDLコレステロール値140mg/dl以下に下がらない、さらに膝窩動脈以下の閉塞又は広範な閉塞部位を有するため外科的処置が困難で、かつ従来の薬物療法では十分な効果を得られない例がLDLaの保険適応と規定されています。意外かもしれませんが、条件のうちたいてい問題となるのは総またはLDLコレステロール値が高くない症例が多いことです。ASOが発症するに至った経緯の中ではこれらの値は高値であったかもしれないが、病状が進行し、明らかな症状が出現した時点においてはむしろ正常値である場合が少なくありません。しかも最近強力なコレステロール低下作用をもつ薬物が登場しているのでなおさらです。また別の問題もあります。治療施行にあたっては、太くて十分な血流が得られる血管がなければなりません。やむなく体表面から深い所にある太い血管から血流を得る処置を受けた場合には自宅から通うことは困難で、1カ月以上にわたる入院が必要になります。また、この治療は高額医療であり、金銭的負担も無視できません。

 Q:今後は対象患者が広がり、費用も安くなるといいですね。

 A:近年高脂血症を有しないASOに対してLDLaが有効であるとの報告が少しずつみられるようになりました。その理由としてLDL以外の前述した病因物質に対する効果によるものと指摘されているので、従来の適応基準は再検討されるべきかもしれません。

(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2008.8.6]