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〈みんなの健康Q&A〉 B型肝炎−予防と最新治療

 B型肝炎ウイルス(HBV)はアジアを中心として世界中に3億5千万人以上の慢性感染者をもつ、「ウイルス中のウイルス」「巨物級」ウイルスだ。

 中国国内では日本の総人口(1億2千万人)に匹敵するか、またはそれより多いHBV感染者が存在するとみられ、朝鮮の南北にもその感染者が多いことが知られている。日本国内のHBV感染者は約150万人とされている。日本以外のアジアでは、以前はそれほどに顧みられることが無かったHBV感染だが、地域の急速な経済成長に伴い、ウイルス駆除の治療方法をはじめHBVに関する臨床研究の進歩は目覚しい。最新のHBV感染症診療の一端を紹介する。

 Q:B型肝炎ウイルスはどのように感染しますか?

 A:HBV感染者の血液が他人に入ることで感染が成立します。

 輸血による感染がその一例です。しかし、現在ではHBVの混入した血液が検査をすり抜けて輸血されることは極めて稀ですし、ウイルスに対する消毒法や使い捨ての医療器具の普及により、医療行為によるHBV感染は激減しました。

 現在HBVに感染している人は、生まれたときに母親から感染したか(垂直感染)、あるいは乳児期以降に血液や体液を介して感染した(水平感染)と考えられます。

 B型肝炎多発地域である東アジアにおける主要なウイルス感染経路は、母子間の垂直感染です。B型肝炎で悩んでいる同胞の多くが、兄弟、母親にもHBV感染者や肝臓病患者がいるのはこのためです。日本では1986年からHBV感染者の母親から生まれた新生児にたいし感染の予防処置が行われているため、出産時の母子間感染は例外的となりました。従って、2008年時点では、垂直感染は23歳以上のHBV感染者におけるかつての感染経路ということになります。

 Q:垂直感染はもう心配がないようですが、水平感染について教えてください。

 A:水平感染は今もなお残る感染経路として、注目に値します。

 子どもの感染について先に話しましょう。

 HBV感染者の肝臓でウイルス増殖が盛んな時には、血液や唾液等体液中のHBV量も増えることが知られています。乳児期から小児期にかけては親との接触が最も濃厚なため、親がHBV陽性でウイルス増殖が旺盛な場合、子どもへ感染する危険が増すと思われます。また、昔と比べてワンパクな遊び方が減ったため可能性は低下したかも知れませんが、子ども同士の感染も報告されています。感染者の血液が付着している可能性がある歯ブラシや髭剃りなどを子どもから遠ざけ、食べ物の口移しなどは避ける必要があります。しかし、一緒に風呂に入ったり、食事をして感染することは通常ありません。家族にHBV陽性者がいても、子どもが抗体(HBs抗体)を持っていれば感染することはないので、小児科を受診して血液検査で確認すればよいでしょう。もし抗体が陰性ならHBVワクチン注射について小児科医にご相談ください。

 なお、C型肝炎ウイルス感染の場合と同様ですが、小児期の種々の予防注射でHBVが感染したのは過去のことであり、使い捨ての注射器を用いている今は心配ありません。

 Q:B型肝炎ウイルスは性行為で感染するとききましたが?

 A:核心的な質問です。水平感染経路としては、実は性行為が最も多いのです。

 HBVが肝臓で盛んに増殖するとき、血液中のHBV量が増えることには既にふれました。その際には精液など体液にもHBVが存在する可能性があり、微量の血液が混入していることも考えられます。

 日本では現在、ほとんどのB型急性肝炎は性感染によると考えられており、患者さんが増える可能性も指摘されています。

 他の水平感染経路としては、覚せい剤注射、入れ墨、ピアスの穴をあける針の共用などがあり、C型ウイルスの場合と同様です。

 Q:交際している相手がB型肝炎ウイルス陽性のようです。どうしたら良いでしょうか。

 A:よく協力して2つの対策を同時に進めることをおすすめします。

 @あなたはご自身が感染していないことを確かめたうえで、HBVワクチンを接種し感染を予防し、A 相手(HBV陽性者)は肝臓専門医に相談し治療対策を立てることです。

 ワクチン摂取は通常は3回行い、約90%でHBs抗体が陽性化、つまり予防が完了します。医療保険は効かず自費ですが1回3000〜4000円です。3回の接種で急性肝炎のリスクを大幅に減らすことができるとすれば、コストパフォーマンス(費用対効果)は高いといえるでしょう。多方、コンドームの感染予防効果は限定的と思われ、不特定の相手との性行為はHBV感染機会を増やすことが予想されます。

 Q:B型肝炎はまるで性感染症のようですが。

 A:急性肝炎に限ると、近年では、そう考えることもできるのです。

 ちょっと難しい話になりますがお付き合いください。今まで日本でみられたHBVは遺伝子のタイプでいうとB、C型でした。B型HBVは日本列島固有の遺伝子型と考えられており、C型HBVは、2000年以上前に朝鮮半島や中国から移住してきた人々が運んできたHBVと考えられます。水平感染(性感染)によりB型急性肝炎が起きますが、99%は自然に治癒し、重症化して死亡したり慢性肝炎に進むことは稀です。しかし、近年、東京や大阪、名古屋など日本の大都市圏では、遺伝子型AのHBVによるB型急性肝炎が急増しており、今やB型急性肝炎の半数を占めると報告されています。遺伝子型Aは欧米や東南アジアの一部で広がっているHBVで、ヒトの移動に伴い日本に上陸したと想像されます。当初は外国人との性的接触で日本人に感染が広まったと思われますが、今や日本人同士で感染が急拡大しています。在来型(遺伝子型B、C)とは異なり、A型HBVは、初めて感染した人の10%以上では、完全に排除されずに慢性肝炎に移行する恐れがあります。さらに驚くべきことには、A型HBV感染者は梅毒やHIVなど他の性感染症にも重複して感染していることが多く、これらの病気もHBVと同時にうつる可能性があるのです。

 わたしには、遺伝子型AのHBVが日本のB型肝炎に与える衝撃は、経済のグローバリゼーションの波とまるでシンクロナイズ(同期)しているかのように見えるのです。

 (姜貞憲先生、手稲渓仁会病院消化器病センター、札幌市手稲区前田1条12丁目、TEL 011・681・8111)

[朝鮮新報 2008.8.20]