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〈みんなの健康Q&A〉 B型肝炎−予防と最新治療

 Q:B型肝炎もC型と同じく肝硬変や肝ガンになりやすいとききましたが。

 A:B型慢性肝炎は肝硬変、肝ガンへ進行する病気です。

 慢性肝炎と診断されてから肝硬変に進行するまでは20年前後かかるとみられますが、より早く硬変に到達することもあります。多くのB型慢性肝炎ではC型と同じく肝硬変の時期に肝細胞ガンが発病しますが、硬変の手前の慢性肝炎の段階で、そして比較的若い年齢(20〜50歳代)で肝ガンが発病することもあり、この点はB型の特徴と言えます。肝硬変と診断されてから肝細胞ガンが発病する頻度は年に3〜4%であり、C型肝硬変から肝ガンが生じる場合の半分くらいです。慢性肝炎の時期や肝硬変・肝ガンの初期段階では自覚症状はほとんどなく、肝硬変や肝細胞ガンが進行した時期に初めて黄疸、腹水、むくみ、痩せるなどの症状が現れ、神経障害(肝性脳症)や食道静脈瘤を合併するのはC型と同様です。一方、ウイルスが肝臓で増えているのに発病しない状態が長く続くことがあり、このことはC型肝炎と大きく違う点の一つです。

 Q:HBVに感染していても肝炎が発病しないとはどういうことでしょう。

 A:B型肝炎ウイルスの無症候性キャリアについてお話します。

 HBVでは、出産の時の母子感染(垂直感染)や幼児期の水平感染が重要であることはすでに述べました。ウイルスなど体に侵入する外敵を見つけ出して生体から駆除する仕組みを免疫と言いますが、乳幼児期は免疫反応が未熟であると考えられています。この時期にHBVに感染しても、免疫反応が起きにくい状態(免疫寛容)の肝臓でウイルスがどんどん増え続けるのです。HBVが肝細胞で増え続けても肝炎は生じない状態が即ちHBV無症候性キャリアなのです。

 やがて成人期になると免疫システムがようやく目を覚まし、HBVが肝臓で増殖していることに気付きます。そこでひとたび免疫反応がおきると、生体はウイルスが感染した肝細胞をまるごと破壊してウイルスを駆除しようとします。これが肝炎なのです。肝細胞が壊れるとその中に含まれたAST、 ALTなどの酵素が血液の中に多量に漏れでてくるので、肝炎の程度がわかることはC型肝炎のところでもお話しました。

 Q:無症候性キャリアから発病したらその後はどうなるのでしょうか?

 A:無症候性キャリアの90%では見事に肝臓からHBVが駆除されるか、あるいは激減して肝炎は治まります。その先も肝臓にHBVが少数ながら残る無症候性キャリアの状態が続く事もありますが、一般にはHBVの増殖が次第に沈静化し、発病しない状態が続くことが多いようです。

 一方、免疫反応によって肝炎が生じた後にもHBVが排除されない、またはウイルスがそれほど減らなかった10%のHBVキャリアでは、慢性肝炎がその後も続き肝硬変、肝細胞ガンへ進行する臨床経過をたどるのです。この方たちにおいても、慢性肝炎や初期の肝硬変では自覚症状はないため、検査を受ける機会に恵まれなけばAST、ALTの上昇がみつからず、診断されないまま治療を受けずに、病気が進行する道を歩むことになるのです。

 Q:無症候性キャリアからB型慢性肝炎に進んでも早くから診断・治療すれば治るのですか?

 A:今は治る病気になったと言えます。

 それは肝炎の原因であるHBVの増殖を制御できる治療法が次々と開発されたからに他なりません。

 比較的若年で慢性肝炎の初期と思われる方や、ALTが比較的高い(肝炎の活動性が高い)方では免疫反応が強くHBV排除の仕組みがそれなりに働いていると言えます。これらの患者さんにはインターフェロン治療を6カ月間行うことにより、生体の免疫応答を応援してやり、HBVの駆除を進めるよう後押しをする事ができます。治療は半年で終了しその後観察することになりますが、肝臓でのHBV増殖が徐々に低下することが期待されます。

 30歳代の中ごろからは自力でHBVを排除する力が低下してくるので、核酸アナログ製剤という内服薬を用いることになります。これには肝臓でのHBV複製を妨げる作用があります。日本で最初に臨床現場に導入された核酸アナログ製剤はラミブジンで、00年11月頃から使用されてきました。06年9月頃からはエンテカビルが主に使われています。ラミブジンには、この薬剤が効かなくなる(薬剤耐性)ウイルスが肝臓で増える問題がありますが、04年12月からはラミブジン耐性HBVにたいしアデフォビルという別の薬剤を併用することで、ほぼHBVの再増殖を押さえ込むことができるようになりました。

 これらの治療によりB型慢性肝炎の進行をくい止めることが可能となったため、肝硬変ヘの進行例が減ったと思われ、さらに、肝移植以外に命を救う方法が無かった肝硬変の患者さんでもその進行を押さえ込むことができるようになったのです。

 肝炎抑制効果が限られている肝庇護剤の注射や内服に頼っていたそれまでの治療を考えると、原因であるHBVの増殖を制御できる現在の治療風景は隔世の感があります。

 Q:ALTが正常に戻ったら核酸アナログ製剤は中止してもよいでしょうか?

 A:その点が今もなお残る問題なのです。

 エンテカビルなど核酸アナログ製剤は、肝細胞の中でHBVが増えることを妨げるので、肝臓内のHBV量は減少し、新たにHBVに感染する肝細胞も減るので、血中のウイルス量も低下します。従って肝炎は沈静化するためALTは正常化するのです。しかし、HBVの遺伝子は増殖しないものの肝細胞の核内にはしっかり残ります。もしこの状態で核酸アナログ製剤の治療を中断すると、残った遺伝子から再びウイルスが複製されHBVは再増殖を開始します。結果として肝炎が再燃し、場合によっては激しい急性肝炎のような状態を呈して一気にたくさんの肝細胞が壊れ肝不全を呈することがあります。この場合は命の危険も伴うのです。

 エンテカビルの内服によりALTが正常化して慢性肝炎が改善したと言われても、自己判断により薬剤を中止することは控えるべきです。

 どのような場合に核酸アナログの中止を安全に行うことができるのかは、今後解明するべき課題といえます。

 (姜貞憲先生、手稲渓仁会病院消化器病センター、札幌市手稲区前田1条12丁目、TEL 011・681・8111)

[朝鮮新報 2008.8.27]