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〈人物で見る朝鮮科学史−65〉 中世末期の科学文化C

朝鮮地理学の百科全書的書籍

「世宗実録・楽譜」

 中世は世界史的に見れば15世紀までであるが、朝鮮科学史の場合は16世紀までが中世と区分される。というのも、西洋ではガリレオ、ニュートンによる力学の形成によって近代科学の幕が開くが、朝鮮を含む東洋ではそのような展開はなかったからである。同時に、16世紀まで朝鮮の科学技術は中世的特徴を色濃く残していたからである。

 では、その特徴とは何だろうか?

 まず、封建身分制度の下でおもに王の命によって科学技術が発展したということである。ということは、反対に当代の王にその意識がなければ大きな科学技術発展は望めないということになる。

 事実、世宗時代の華々しい展開に比べて燕山君時代は特筆すべきことがなかった。ちなみに、朝鮮の歴代の王は死後に送られる謚号(おくり名)で呼ばれるが、暴君といわれた燕山君にはそれが与えられなかったのである。

 もう一つの特徴は、古代に比べて科学技術に地域性・民族性が色濃く反映されたことである。当たり前とも思えるが、次の時代の近代科学は地域と民族を超えた普遍性に最大の特徴がある。

「新増東国與地勝覧」

 さて、これまでも朝鮮における独自の展開について紹介してきたが、その典型といえるのが自国のさまざまな事柄を整理した地理書の出版であり、その代表的書籍が「世宗実録地理志」と「東国與地勝覧」である。

 1454年に完成した「世宗実録地理志」は、全国の道、郡、県の行政単位の歴史地理と自然地理、経済地理を60余項目に整理したものである。いわば、朝鮮の国勢調査といえる内容である。

 この地理志はその題名が示すように「世宗実録」に付録として収録されたものであるが、以前紹介した暦書「七政算」や「楽譜」も収録されている。ちなみに、「楽譜」は宮中行事において演奏される楽譜を集めたものであるが、1行に32井間をおいて12律名を記入して音の高さと時価がわかるようにしたもので、東洋最初の有量楽譜といわれているものである。

 「世宗実録地理志」を淵源とした朝鮮地理学の百科全書的書籍といえるのが「東国與地勝覧」である。それまでの成果を基に全国的な規模で具体的に調査した新しい資料を道・郡・邑別に整理したもので、まず各道と邑別にその地の呼称の歴史的変遷からはじまり、地理的特性と土産物、城郭の大きさと軍事施設、温泉、牧場、気象気候条件、風俗、交通、田畑の肥沃度、住民構成、さらには有名出身者まで実に膨大な情報を集録している。

 成宗12年(1481年)盧思慎・姜希孟・徐居正・梁誠之ら当時を代表する学者たちによって編さんされた後も1486年と1499年に修正補充され、さらに李らによる増補を加えて中宗25年(1530年)に「新増東国與地勝覧」55巻として完成、今日まで伝わっている。まさに、中世末期を飾るにふさわしい業績といえるだろう。(任正爀・朝鮮大学校理工学部教授)

[朝鮮新報 2008.8.29]