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若きアーティストたち(60)

ネイリスト 姜淳一さん

 ピンク、ブルー、イエロー、オレンジ…カラフルなマニキュアを巧みに操り、ラメやラインストーンを散りばめる。男性とは思えないほど器用な手つきだ。見る見るうちに爪にアートを施していく。

 「新しい世界に、飛び込んでみたかった」

 朝鮮大学校卒業後、親の反対を押し切ってネイリストになる道を選んだ。「銀行や飲食店とか、どうしても性に合わない気がした」と、当時の心境を吐露する。

 卒業間近、就職先を探すなかで美容系の職が目に付いた。とりわけ、ネイルには強い興味を持った。「こういう仕事もあるんだって思った。ネイルアートが流行りつつある時期だったし、チャレンジしてみたくなった」。そして、木下ユミ・メークアップ&ネイルアトリエに入学、この世界に飛び込んだ。

 やがて卒業を控え就職活動するなか、社会全般的な就職難や国籍問題など、いくつもの壁が立ちはだかった。そして極めつけは、「男性」であるということ。大半の客が女性である美容業界。美容室とは違い、まだ世間に馴染みの浅かったネイルサロンに男性スタッフの存在は「常識」ではなかったのだ。

 それでも必死に探し回った結果、卒業から3カ月後の7月、ようやく就職が決まり、サロンのスタッフとなることができた。

 仕事が終われば、夜は疲れた体に鞭打ち、家に道具を持ち帰り練習を重ねた。駆け出しの頃は、失敗も多々あったという。

 ピンクマジックにもかかった。「ピンクは女性に人気の色。来る人来る人みんながピンクをオーダーするのに、どこかしら不満があった」と述懐する。

数多い作品の中の一部。ラメやラインストーンをちりばめたり、ジェルやスカルプを施したりとデザイン、技法も多種多様

 しかしそんなある日、テレビで語るあるクリエーターの言葉が耳に残った。「クリエーターには2つの顔が必要だ。一つは何かを創造する顔。もう一つは、ビジネスマンとしての顔」―なるほど、自分の欲求と仕事をどちらもバランス良く保たなければならない、いいものを創るためにはビジネスをきちんと取り入れなければ、と得心がいったという。

 サロンには多くの女性客が訪れる。まずは「男性」ということに抵抗感を与えないよう雰囲気を和ますことを心がける。だから、いわゆるガールズトークもお手のもの。恋愛相談を受けるときだってある。年齢層に合わせた会話ができるよう、流行や時事ネタなど情報収集にも余念がない。

 帰郷した時には、ハルモニやオモニにもネイルアートを施す。「女性はいくつになっても常にキレイでいたいもの。僕もキレイになってほしいというのが一番の願い」。

 これまで数え切れないほどのネイルアートを手がけてきたが、その中にまったく同じ「作品」はない。「同じ材料を与えられても、違う人が作ればそれぞれ違うものができあがる。十人十色。でもだからこそ、自己満足はできない。アートに限界はない」と、言いきる。

 現在、東京・新宿のネイルサロン「Nail musee新宿」の店長。7人のスタッフを抱え、指導にもあたる。

 ネイリスト歴4年目。幾重の壁を乗り越えてきた姜さんは、「こういう仕事に携わる同胞がいるということが、何かの希望や夢につながれば」と願ってやまない。また、この世界でがんばれるのは、「家族やウリハッキョの友だちが温かく迎え入れてくれる『帰る場所』があるから」とほほえんだ。(姜裕香記者)

※1981年生まれ。徳山朝鮮初中級学校、山口朝鮮高級学校(当時)、朝鮮大学校経営学部、05年木下ユミ・メークアップ&ネイルアトリエ卒業。NPO法人日本ネイリスト協会技術能力検定1級ネイリスト。現在、東京・新宿にあるネイルサロン「Nail musee新宿」の店長を務める。

[朝鮮新報 2008.9.29]