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黒川洋治氏死去 在日の精神医療に尽くし

 昨年、インタビューシリーズ「一人一冊」に登場していただいた神奈川県・国府津病院長で精神科医の黒川洋治氏が亡くなったという訃報が届いた。

 自ら末期ガンに冒され、死と背中合わせに生きながら、血を吐くような切実な思いで、精神科医として「在日朝鮮・韓国人と日本の精神医療」を著した。昨年6月にお会いした折には、すでに宣告された余命の時を過ぎていたが、静かなたたずまいの中にも、命の尽きるまで医療に尽くそうという覚悟が伝わってきた。

 若い頃、学生運動にのめりこみ、戦争、搾取、差別、不平等などに強い怒りを感じて、在日朝鮮人の「出入国管理令」反対闘争なども支援し、在日の民族権利を守る闘いに共感を寄せてきた。

 故郷と引き裂かれ、渡日したものの、適応できず、職を転々としたあげく、言葉も通じない日本社会の片隅にぼろ雑巾のように打ち捨てられた在日1世たち。そんななかで「警察に監視されている」というある1世の患者の妄想は、在日の日常にあっては、幻聴や妄想でもなく、現実そのもの。自著では、彼らをそこにまで追い込んだ社会の根深い差別の構造こそを問うべきだと、強い問題提起を行った。

 精神科医として、死の渕から見据えた社会の深い病巣。多くの在日の患者と向き合い、最後まで在日朝鮮人精神疾患患者が置かれている「痛ましい」現状から目を離さなかった。

 聖書にある「なほ暫し光は汝らの中にあり、光ある間に歩みて暗黒に追及つかれぬように為よ」「されど終まで耐へ忍ぶものは救わるべし」を導きの糸に、生命を燃焼しつくした生涯だった。心から冥福を祈りたい。(粉)

[朝鮮新報 2008.10.1]