top_rogo.gif (16396 bytes)

〈本の紹介〉 「チェ・ミンシク 行動する役者」

社会と向き合う懐の大きさ

 本書に収められたのは、07年10月に立命館大学朱雀キャンパスで開催された「第二回RiCKS韓国映画フェスティバル」(同大コリア研究センター主催)で行われた、ゲスト俳優のチェ・ミンシクさんのトークおよびチェ・ミンシクさんを囲んでのシンポジウムの記録。

 同氏は映画「オールドボーイ」(04年)でカンヌ国際グランプリを受賞するなど、現在の南を代表する演技派俳優の一人。また、スクリーンクォーター制の縮小に反対する映画人の先頭に立つなど行動する役者としても知られている。

 シンポでは多くの映画ファンが詰めかけ、卓越した演技を生み出す同氏の生き方や考え方に耳を傾けていた。とりわけ、シンポの司会者が投げかけた「社会のエリートではなく、そこから外れてしまった人、中年を迎えて悲しさや寂しさを抱えつつも、その中から人生に向かっていこうとするいろいろな人物を演じきる凄さが、どこから出てくるんだろうか」という質問への次のような答えに、共感の輪が広がっていた。

 「俳優は心を開かねばならないと常に思っている。ある人物や状況に対して簡単に価値判断してはいけません。理解しようと努力しなければならないのです」

 「世界で最も美しい存在が人間だといえるでしょうが、世界で最も醜い存在もまた人間なのです。人間が持っている多くの欲望と感情、そして善と悪の心、この間にある多くの感情は、本当に分からないものです」

 「人間とはそのような複雑なものであり、それを自分の人生観と価値観でたやすく決め付けて認識してしまうと、キャラクターを理解する幅がそれだけ限定され、狭まってしまいます。だからとにかく理解すること、なぜその人間がそうするに至ったのかを知ろうとする開かれた心が、俳優にとっては最も必要です」

 人間への深い洞察力と観察眼。社会に向き合う懐の大きさが、役者チェ・ミンシクたるゆえんである。(立命館大学コリア研究センター編、かもがわ出版、600円+税)(粉)

[朝鮮新報 2008.10.6]