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〈本の紹介〉 南北首脳会談への道

胸襟開いた対話の重要性を確信

 紺色の背広を着た金大中大統領は機内から顔を出すと、仁王立ちで待ちかまえていた金正日国防委員長を見つけて微笑んだ。両首脳は互いに拍手のエールを送る。タラップを下りた金大統領、異例の出迎えを演じた金国防委員長とがっちりと握手を交わした。青空広がる順安空港。時計の針は2000年6月13日午前10時37分を指していた。

 全世界がこの歴史的瞬間に感動を覚えた分断史上初の北南首脳会談。本書は同会談を韓国側で推進・統括した林東源氏の回顧録である。

 筆者の林氏は1990年の北南高位級(総理)会談で韓国側代表を務め、92年に統一次官、金大中政権発足で大統領外交安保首席秘書官や統一相を歴任。首脳会談開催時は情報機関、国家情報院長。軍事対立ではなく、対話と交流によって朝鮮半島の安定的な平和と統一への道を目指すという金大中政権の朝鮮政策立案の中心人物だ。

 韓国陸軍士官学校第13期を卒業し将軍出身の筆者は、外交・安保・統一の主要ポストにあった各時期を振り返る。さらに、話題は米国が朝鮮の高濃縮ウラン核開発に疑いの目を向けることで招来した「第二次核危機」とその後の朝鮮半島情勢にまで及ぶ。だが、最も読み応えのあるのは北南首脳会談推進の過程と会談当時の秘話であろう。

熱烈に歓迎する平壌市民(2000年6月13日)

 とくに、金正日国防委員長との面談でのやりとりは生々しく、興味深い。大統領が会談開催の合意後、国防委員長の身上に関する情報収集を命じる。しかし本書によると、「情報はほとんどがネガティブな内容で、金大統領は、もしこれがみんな本当なら、このような人物と向き合って果たして会談ができるのかと心配」する。そして大統領は筆者に国防委員長と直接会って人物を見極めるように指示する。

 筆者は首脳会談に備え、国防委員長との面談にこぎ着け、初対面で受けた印象を大統領に報告する。「相手の話をよく聴き、自ら話すのを好む。識見があり、頭脳は明晰、素早い判断力がある。明るくユーモア感覚に富む……」。国防委員長の実像は、従前の情報をことごとく否定するものであった、と筆者は指摘する。

 韓国に李明博政権が今年誕生して以降、北南関係は21世紀に入り最悪の状況だ。2000年の首脳会談で築いた「統一」の夢をつなぐ「架橋」は崩壊寸前である。

 その責任の所在はさておくとしても、本書は和解・交流への道には、相手との信頼関係と胸襟を開いた対話が重要であることを確信させる一冊である。(林東源著、2800円+税、岩波書店)(篠口泰臣・フリーライター)

[朝鮮新報 2008.10.14]