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〈本の紹介〉 ふたつの故郷

在日女性の営み 鮮やかに

 在日の女性層は大きく3通りに分けられる。老いるや無意識に母国語が飛び出し、死しては故郷の土に戻らんとする1世、解放前後に生まれ祖父母や両親の母国語を耳に育った2世、産声をあげたそのときから日本語を耳に育つ3世、4世…。

 2世の生は大なり小なり朝鮮半島の歴史や文化、儒教などを身に付ける一方で、日本文化の洗礼を受けて成人し、一見、日本人と変わらぬ外貌をなし中年になった。その2世に故郷を尋ねたら大概は済州島だの慶尚道だのと答えが返ってくる。

 著者、朴才暎は書で、朝鮮人に尋ねられれば「慶尚北道」と答え、日本語で尋ねられればちょっと躊躇して「津軽」と答え、そして答えてしまうと「胸は温かい想いに充たされ一杯になり、顔には笑みが拡がってゆく」と書き、「私にとってふるさと・津軽はそれほど大切な処なのだ。もし今の私に善きもの≠ェあるとすれば、それは紛れもなく、すべてあの津軽での日々に培われたと思うからだ」と書いた。

 ふたつの故郷を懐として育ち、現在は奈良に住む著者の初めてのエッセイ集は、第1章で父親と津軽の想いを綴り、2、3章では奈良での生活を、4章では女性問題心理カウンセラーとして働いた日々を、最終章では人々と出会う心を綴っている。

 筆者は、流麗な文章で表わされたエッセイに今を生きる一人の在日女性の営み、志向、努力そして法悦にも似た喜びを感じる。

 だが、読み終えると物足りなさが残る。女性問題心理カウンセラーの仕事をなぜ辞めたのか? などであるが、筆者はそれが惜しくてならない。同じ女性であるが所以だろう。同世代を生きる者として、朴才暎さんのこれからの活躍を期待して止まない。(朴才暎著、藤原書店、1900円+税、TEL 03・5272・0301)(金松伊 作家・評論家)

[朝鮮新報 2008.10.14]