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〈本の紹介〉 ファン・ジニ 上・中・下

運命に負けない気高い精神

 黄真伊は16世紀、朝鮮王朝時代に実在した女性である。

 1516年に開城で生まれ、没年は不詳。女性詩人としても知られ、6編の時調と4編の詩が現在に伝えられている。

 知性と美貌を兼ね備えた才媛としてあまりに有名な彼女は、両班たちを夢中にさせたとの伝説もあり、多くの文学にも登場する。

 洪錫中による本作は、階級差別の厳しい時代、激動の人生を歩みながらも誇り高く、ひとりの男性への愛を貫いたヒロインとして黄真伊を描いた。

 作品は架空の人物である「ノミ」という火賊(元黄家の下男)と妓生黄真伊という、底辺で生きるしかなかった者たちの悲劇的な愛の物語を中心に据えている。貴族の娘として育てられた真伊は、婚礼を前に出生の秘密を知り、自ら家を出て妓生だった実母と同じ道を選ぶことを決意する。

 作品は、人目には聖人君子のような両班が、人目に触れないところでは手当たり次第女性に手を出す偽善に満ちた行為を厳しく批判し、その批判は、寺で生き仏あるいは高僧を自称する仏教界にも向けられる。

 また、寂しさと恨み、高慢さ、相手の心を得ることのできない苦痛、思慕する気持ちを抑えることができずわざと離れて暮らそうとする気持ちなど、男女の関係で起こりうるさまざまな感情の機微を文学的な表現を用いて余すところなく描写している。

 作家は「林巨正」で知られる植民地時代の文豪・洪命熹の孫。朝鮮作家同盟中央委員会作家として数多くの作品を発表している。2002年に朝鮮で発表された本書は、同年、南朝鮮でも出版され、映画化(ソン・ヘギョ主演)された。今月、日本でも公開された。(洪錫中著、朝日新聞出版、各1500円+税、TEL 03・5540・7793)

[朝鮮新報 2008.10.17]