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プラハで迎えた国慶節 「がんばれ」の思い、ピアノ曲に

来月13日、東京・北とぴあでピアノコンサート

 9月21日はあいにくの雨であったが、東京中高で行われた朝鮮創建60周年記念祝典に参加した。同胞が集まる場に行くとなぜかワクワクする。最初は気になった雨も、数年ぶりに会う友人との会話で気にならなくなる。ほろ酔い気分で帰路に着きながら、ふと2年前、チェコ・プラハで迎えた国慶節の思い出が蘇った。

「舟歌」に込めた思い

プラハ城をバックに(左が筆者)

 30年来お付き合いしているチェコの指揮者、アントニン・キューネル氏の好意により、日本のある大学の吹奏楽部定期演奏会で、私の作品「吹奏楽のための舟歌」を演奏する機会を得た。この作品は、日本の「北朝鮮バッシング」によって打ちひしがれている在日同胞に「がんばれ!」とエールを送るため、朝鮮民謡「舟歌」を主題に荒波に立ち向かう意気込みを描いたものだ。

 私の指揮するこの曲を聴いたキューネル氏はとても気に入ってくれて、「この秋、プラハ城守備警察音楽隊のプロムナードコンサートを指揮することになったのでこの曲を入れよう」と言ってくれた。

 場所は世界遺産のチェコ・プラハ城の中にある大統領府の庭。一日に何万人もの観光客が訪れる所である。しかも9月9日。当初は楽譜だけ送って済ませるつもりだったが、「アボジは昔チェコで勉強したかったんでしょう。絶対行くべき!」との娘の強い後押しでチェコ行きを決意した。

チェコ行き

大使館で記念撮影

 私は20代の時、キューネル氏に5年間指揮法を習ったことがある。その間たくさんのチェコの曲に接した。18世紀頃までドイツ、オーストリア、ハンガリーなどの大国に侵略され、チェコ語も文化も消えかかってしまった。それを国民楽派と呼ばれるスメタナ、ドヴォルザークらが中心となって国民運動を展開。当時ドイツ語が公用語で、ドイツの音楽しか演奏許可を出さなかった劇場をボイコットし、全国に募金を募り、チェコ語のオペラを上演できる劇場を作った話には強い共感を覚えたものだ。

 スメタナの作曲した連作交響詩「我が祖国」、ドヴォルザークの交響曲「新世界より」などは、今や世界的な名曲として知られている。どれも祖国を愛し、郷土を愛し、家族を愛する民族的情感あふれる曲で、そのメロディーもなぜかアジアの、朝鮮民謡の音階に近いものを感じさせる。「留学するならチェコ以外ない」と思っていた。

 06年9月5日、私と妻と娘は14時間かけてプラハに到着。翌日はキューネル氏指揮のプラハ城守備警察音楽隊のリハーサルに立ち会った。8分間の「吹奏楽のための舟歌」には、朝鮮民族固有のチャンダンがたくさん入っている。彼らは最初それをおもしろがっていたが、消化するのには苦労したようだ。この楽団は儀礼兵的な役割をしているようで、どこか朝鮮の人民軍軍楽隊を連想させた。

9.9節

「吹奏楽のための舟歌」を指揮するアントニン・キューネル氏

 9月9日、コンサートの当日。野外ステージを世界中の観光客とプラハ市民が取り囲んだ。ドヴォルザークのスラブ舞曲、スメタナのポルカ…。1部の最終曲が私の曲だ。緊張する。客席の最前列に座ったときだった。

 「金先生ですか?」

 突然後ろから声がかかった。チェコ語、英語、その他の言葉が飛び交う中で聞いた朝鮮語の響きである。驚き、後ろを振り向いた。そこには金日成主席の肖像画バッヂを胸にした3人の男性とかわいい少女が花束を持って立っていた。

 「駐チェコ朝鮮大使と二等書記官、私は三等書記官で、この子は娘のウンジュです」「おめでとう! 9.9節にプラハ城大統領府で朝鮮の曲が演奏されるのは大変喜ばしいことです」「ここは金日成主席が訪問され、毎日チェコ大統領と散歩された『黄金の木陰』という所です。そしてこの楽団が『愛国歌』を演奏しました。彼らが『愛国歌』以外の朝鮮の曲を演奏するのは初めてです。本当にうれしいです」

 私の曲の順番になると、司会者が私を紹介し、朝鮮大使を丁重に紹介した。世界の観光客とプラハ市民の前で、「在日同胞がんばれ! 日本の荒波を乗り切ろう!」との思いで作曲した曲が力強く演奏され、私は指揮者のキューネル氏と舞台の上で硬い握手を交わした。演奏後は数人の観客にサインをねだられた。その日のビールのおいしさは今も忘れられない。

 コンサートの翌日、私たち3人はバッヂを胸に大使館へと向かった。大使館の入り口に掲げられた表札、頭上になびく朝鮮国旗を私は何度も見上げた。

 大使館では真心のこもった食事会を催してくれた。外国で食べるキムチ、チャプチェ、ムクはどんなに美味しかったか。胸には「私たちには祖国がある、私たちを温かく迎え入れてくれる祖国がある」との思いがこみ上げてきた。

コンサートに向けて

「ミハル・レゼック特別演奏会」11月13日、東京・王子の北とぴあ。午後6時半〜、全席自由3500円。TEL 03・3799・4611

 その後、キューネル氏を通して知り合ったチェコ・アカデミー教授のピアニスト、ミハル・レゼック氏に連絡をした。彼が演奏旅行中ということで私のピアノ曲の楽譜とテープを置いてきた。

 そして今年7月、ミハル・レゼック氏が日本へ演奏のため訪れた際、同氏は「全曲あなたの曲で演奏会をしましょう。今年中に、できる?」と言ってくれたのである。来月、東京で開かれる「ミハル・レゼック特別演奏会−金学権ピアノ音楽の世界−」はこうして決まった。

 同氏は私の曲をチェコのスメタナやドヴォルザークのそれに重ねて理解してくれたのだろうか。これまで一度も演奏したことのない曲だけでコンサートをするのはとても大変なことだ。今彼は、モルダウ川の辺にあるプラハアカデミーの自分のピアノ室で、演奏曲の練習に励んでいるだろう。

 コンサートでは私も出演し、一曲一曲解説しようと思っている。プラハで迎えた国慶節に感じたこと、祖国統一を願っていること、そして、在日同胞がんばれ! との思いを込めて。(金学権、文芸同盟員)

[朝鮮新報 2008.10.22]