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〈本の紹介〉 メディア@偽装

国家の嘘に騙されるな

 いま、日本のメディアは壊れている、と誰もが思っていることだろう。職場の荒廃が進み、権力の暴走をチェックする機能が衰退、といおうか、すでに「消滅」したと言っても過言ではあるまい。

 そうした状況のなかで、健筆をふるう著者が渾身の取材を通じて「国家の嘘に騙されるな」と訴えたのが本書である。メディアの裏側、権力の野望…。ページをめくるたびにその荒廃ぶりに慄然とせざるをえない。

 ある新聞社から依頼された「秋葉原無差別殺傷事件」についての原稿が「ボツ」となった体験。今の日本に蔓延するメディアの無気力さが浮き彫りにされている。

 著者はその原稿でこう指摘したのだ。「はっきり書こう。現行の構造改革路線を直ちに中断し、抜本的に見直す必要がある。でなければ私たちの社会は、絶えず、今回のような事件の再発におびえ続けなければならないからだ。

 昇進も昇給もあり得ない。賃下げと馘首は派遣先の胸先三寸。…

 最大の問題はたとえば日本経団連の御手洗富士夫会長が『選択と集中』と形容する構造改革の現場で、選択されなかった層に対する指導者層の異様に高い視座。および、個々の出自や家庭環境すなわちスタートラインの差をあえて無視したイカサマ競争原理、エセ自己責任論の跳梁跋扈だ…」

 さらに著者は、年間の自殺者が10年連続で3万人を超えた狂った時代に追いつめられた人々の多くは自らを葬るが、時に破滅させる対象を外に向ける者も現れる、と警鐘を鳴らすのだ。

 「社会の木鐸」を自称するマスメディアはいったい、何をしてきたのか、もしかしたらメディアそのものが自らを偽装し、社会の偽装を演出しているのではないか−という問題意識が監視社会、教育破壊などのテーマにそって語られていく。

 とりわけ、著者はNHK番組改変事件に注目する。あの番組が、2000年の女性戦犯国際法廷の提起した問題意識を真正面から受け止め、かつ対立する主張を盛り込みつつ未来をも予感させる優れた番組に仕上がっていたら。そして、その番組が高い視聴率を獲得していたら−と。

 同法廷は、軍事大国化への奔流に立ち向かい、抵抗しようとする人々によって支えられた。その番組を葬り去った戦争勢力。その後の日本の流れは、権力とメディアが擦り寄って、かつての危険な道に突き進んできた。その癒着と腐敗を抉り出した意欲作。(斎藤貴男著、マガジンハウス、1300円+税、TEL 049・275・1811)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2008.11.14]