〈朝鮮と日本の詩人-75-〉 近藤芳美 |
迎春花かぎりなく咲く野 国染めてくれない色の朝明けのひろがらむはて大地は凍れ 凛々と大地のかぎり凍る冬聞ゆるごとし国の歓喜は 清冽に祖国と呼ばれむ世界あれ凍る大地の朝のかがやきに 地も河も厳しく凍る冬を生き春まつよろこびは遠く思わむ 新しく国興る声今聞かむ春の解氷を遠く聞くごと よろこびに充ちて一国の興るさま再び訪い得ぬ国と吾が恋えど 迎春花かぎりなく咲く野を知れり凍る大地の春はたちまち 右の7首で「国」「祖国」「凍る冬」「大地」は朝鮮をさしている。これらの短歌は「迎春花」と題して朝鮮時報に掲載されたものの全部である。「凍る」「冬」という詩語は、凛とした朝鮮人民の気概、不屈の革命精神、祖国建設に邁進する人民の勇壮な姿を表す象徴語であるといえる。 7首に通低している詩想は共和国の現実に対する作者のみずみずしくも鮮烈な感動である。それは、第1首の「くれない色の朝明」、第2首の「国の歓喜」、第3首の「清冽に祖国」、第4首の「春まつよろこび」、第5首の「新しく国興る」、第6首の「よろこびに充ちて」、第7首の「迎春花かぎりなく咲く野」などなどの句節をみればわかる。 ながく「朝日歌壇」の選者を務めた近藤芳美は、1913年に馬山で生まれ幼少年期を過ごし、東京工大卒業後清水建設に勤務した。その間にしばしば朝鮮を訪れ金剛山で歌会を開いたりもした。 右の第6首は「再び訪い得ぬ国と吾が恋えど」と、在朝鮮時代への郷愁が滲み出ている。歌集は11冊を数え、79年に短歌新聞社刊行の「定本 近藤芳美歌集」には、朝鮮戦争をテーマにしたものも含めて50余首の朝鮮についての作品があり、右の7首もここに収録されている。(卞宰洙・文芸評論家) [朝鮮新報 2008.12.17] |