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〈朝鮮の風物−その原風景 −16−〉 ソッタルクムムナル(大晦日)

一家総出で正月の準備

 12月を「섣달」といい、大晦日を「섣달 그믐날」とよぶ。「섣달」とは「설」(正月)をむかえる「달」(月)の変化したものといわれる。「그믐」は、明かりが消え入る「그물다」が語源で、新月となる月の最後の日を「그믐날」(晦日)とよぶ。

 朝鮮のことわざに「大晦日に甑(蒸し器)を借りに歩く」というのがある。大晦日はどの家でも正月料理や、祭祀の供えものの準備で甑がフルに使われるので、それを借りにいくことの愚かさを比喩したものだ。

 年の瀬は、どの家でも一年の締めくくりと、新たな年を迎える準備で目がまわるいそがしさだ。

 年の瀬の風物詩といえば、なんといっても一家総出の大掃除と、正月料理の準備だろう。

 大掃除といってもこんにちでは住宅事情が様変わりしたせいもあって、昔のように藁屋根を葺いたり、壁の塗り替え、竃の修理といったような大仕事もなく、かなり簡便となった。それでも常日ごろ、目の届かなかったところまでていねいに掃除する。

 年末でとくに大変な仕事は、料理である。庭先で額に汗をにじませて餅をつく父親と帰郷した長男、手際よく餅の反しをいれるハルモ二、横のムシロでは母親と嫁、孫娘がうるちモチをまるめてトックをつくる。そのできたてのトックを失敬して逃げだす孫、どこかでみた記憶のある家族の風景である。

 餅つきの後は近所の婦人も加勢に加わり、おしゃべりと笑い声もにぎやかに、フライパン(煎鉄)でチジミ、ジョン(煎)、ピンデトックを焼き、ゆで豚、大豆モヤシ、ダイコン、ニンジン、ゼンマイなど色鮮やかなナムルはじめ、さまざまな料理を手早く仕上げていく。女性にとって、正月料理と祭祀の供え物の準備はキムジャン(キムチ漬け)につぐ年の瀬の最もつらい仕事であった。

 しかし、昨今では普段台所にあまり入ったことのない男性も、少なからず料理づくりや台所仕事に参加するようになったと聞く。幾分耳の痛いはなしである。

 こんにちでは家族全員に与える「설빔」とよばれる正月の晴れ着は、買うのが一般的だが、かつては晴れ着の針仕事も女性たちの仕事だった。筆者にも幼いころ、正月の晴れ着としてオモニが編んでくれたセーターをもらって歓喜した懐かしい思い出がある。

 大晦日の夜、各部屋はもちろん、台所、納屋、厠(トイレ)、庭など家の隅々に灯りを灯した。雑鬼の侵入を防ぐのが目的というが、もちろんそれを本気にするものはいない。

 こうして目の回るような大晦日は終わり、人々は正月をむかえる。

 東洋の大晦日にまつわる逸話の多様さに比べ、西欧ではクリスマスのエピソードが主流である。それでも、アンデルセンの「マッチ売りの少女」や、ロシアの「森は生きている」は、大晦日にまつわる数少ない物語である。

 今宵ソッタルクムムナル、「第九」に浸るのも悪くはないが、時にはユンノリで夜を明かすのも乙ではないか。(絵と文 洪永佑)

[朝鮮新報 2008.12.19]