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くらしの周辺−ウリハッキョへの恩返し

 初4担任をした新人教師時代、日本学校でいじめられた編入生を迎えたことがあった。体型は肥満、頭には幾つもの円形脱毛、目も合わせられず会話も片言。日本学校では「デブ、ハゲ、のろま」以外に口を利いてくれる友だちはいなかったという。

 そんな彼をわたしたちは温かく迎え入れた。一緒に給食を食べたり、冗談を言い合ったり、クラス活動で役割を分担してくれることは彼にとって大きな喜びだった。やがて彼は、笑顔がなんとも愛くるしい少年に変貌した。

 しかし遅刻や欠席を繰り返す、虚言や暴力を振るうなどの問題をしばしば起こすので、ある日クラスで話し合いを持った。その場で、「何でハゲてるの?」とタブーな質問が出た。気まずい沈黙のあと彼は神妙な面持ちで黒板に「それはつらいことがあるからです」と書いた。実は彼の心の傷の根本には、アルコール依存症者とDVを抱える家庭の問題があった。まともに学校に通えなかったのだ。そのツラさで10歳の幼い胸は押し潰されそうだったに違いない。誰にも言えない苦しみを、クラスメイトに打ち明ける光景に私の胸は揺さぶられた。

 教員時代には入退院を繰り返す児童、いじめ、障がい、進路問題など生徒だけでなく、父母や教師へのケアが求められる場面を何度も経験した。心理学の知見を持って対処していたら、より良く解決できた問題は多かったろう。

 ウリハッキョに元からある温かさに、心理的なケアも備わればどれだけ心強いだろうか。その思いがわたしを心理カウンセラーの道へと進ませた。それが今まで育ててくれたウリハッキョへの私なりの恩返しだと信じるからだ。(李舜哲、心理カウンセラー)

[朝鮮新報 2008.12.19]