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漢拏山

 漢拏山は、済州島のほぼ中央に、標高1950メートルの高さでそびえ立つ。天候に恵まれれば、島のどこからでもその姿を目にすることができる。

 日本で亡くなった祖父を済州島に埋葬して以来、この島へは何度か訪れている。祖父の墓参りが目的であるため、観光らしい観光はほとんどせず、墓地とホテルを中心に過ごす。滞在期間は毎回短い。そのためか、済州島のシンボルともいえる漢拏山を目にすることはずっとかなわなかった。

 済州空港を出てすぐに、漢拏山のあるはずの方向へ目を向ける。毎回必ず曇っている。

 漢拏山はそこにずっとある。私の短い滞在期間に合わせて、わざわざ姿を隠しているのではもちろんない。けれども、帰り際、空港の入り口で後ろを振り返ると、やはり雲のかかった空の向こうから「もう帰るのか? 私を見ないで帰るのか?」と言う漢拏山の声が聞こえてくるような気持ちになってしまう。

 ようやく漢拏山を目にすることができたのは、今年の4月3日のことだ。その日私は、済州4.3事件の60周年の慰霊祭に参加した。前日まで曇り空が続いていたのだが、慰霊祭当日はすっきり晴れ渡り、漢拏山は慰霊祭を見守るかのようにそびえ立っていた。

 漢拏山はそこにずっとある。漢拏山には、私の短い済州滞在も慰霊祭も関係ない。

 けれども、ようやくその姿を目にしたとき、なぜか「お帰り」と言われたようだった。李千波、私立高校非常勤講師)

[朝鮮新報 2008.12.5]