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キュウリの対ウイルスワクチン製剤、日本で初めて市販化 大阪朝高出身の梁宝成さん

信じて「工夫」続け開発に成功

 微生物化学研究所(京都府宇治市)に勤める梁宝成さん(33)は現在、自ら開発し日本で初めて市販化されたキュウリ用ワクチン製剤「キュービオ」の営業に忙しい。「農家を助け、消費者の安全を守るのに少しでも貢献したい」。そんな温かい思いで普及に努めている。

販促、そして営業も

自ら開発したキュウリ用のワクチン製剤を手にする梁宝成さん

 「キュービオ」は、ズッキーニ黄斑モザイクウイルスに感染したキュウリの葉や実が変形、変色するモザイク病や、株全体が枯れる萎凋症を予防する。微生物化学研究所と京都府などが共同開発し商品化した。植物のウイルス病ワクチン製剤の市販は日本で初めて。

 2008年4月に農林水産省の認可取得後、試験供給を続けてきた。その研究開発、営業、流通、すべての中心に梁さんがいる。

 「世界的な食糧危機に対し、対策がとれるような、そんな研究や仕事に携わりたかった」という梁さんは、大阪朝高を卒業後、大阪府立大学農学部、同大学院へと進学した。「(植物の)病気で食物の3分の1が失われているという統計もある。なんとか防げないものかと、植物のウイルスを扱う研究室を選んだ」。

 博士課程在籍中に同研究所に入社。2005年に博士号を取得し、ワクチンの研究に取り組んできた。

 研究とはいうものの、夏場でも作業着に長靴を履いて畑にでて植物を栽培し、汗と泥にまみれながら実験を繰り返す。同研究所から一人だけの出向のため、孤独な時間も多かった。それでも「必ずものになる」と信じて研究を続けてきた。

 今は市場開拓、販売ルートの確保と多忙な日々を送っている。研究畑で過ごした分、ビジネスの知識は皆無に等しい。それでも信念と自信を持って「一つ一つ築き上げていく楽しさを味わっている」。

植物のワクチンを

ワクチンを接種した研究用のキュウリの苗

 「キュービオ」の話をすると雄弁になるのは、効能への自信の表れだ。梁さんによると、一株から百本の実がなるとして、一度病気にかかると「そのすべてがだめになる」。発症した実を食べても人体に影響はないが、商品化は厳しい。農薬が効かず、手入れのためのハサミを通じても感染するので、予防が困難だった。日本国内で毎年数十億円の被害があった。

 「キュービオ」を6年間使い続けているある生産者は「このワクチンなしでキュウリは作れない」と絶賛しているという。研究所での昨年の試験では、「キュービオ」を接種した場合、発症率は0パーセント(一昨年は0〜0.5パーセント)だった。苗の段階で葉に一度塗りこむだけで効果が得られる。人体には無害なので有機栽培に最適だという。

 梁さんは「キュービオ」の販売促進とともに、今後さまざまな植物のワクチン開発を視野に入れている。「キュウリでの成果をもとに、植物のワクチンを一つのビジネスとして確立できれば。新しいワクチンを日本だけでなく朝鮮や世界に広げたい」と抱負を語る。

常にゴール見つめ

モザイク病に感染したキュウリ

 梁さんは、研究についてこう語る。

 「朝鮮語の『コンブ(学ぶ)』という言葉には工夫という意味合いも含まれている。絶対できると信じ、いろいろ『コンブ』を繰り返すことが大切だ」。

 梁さんは研究所に臨時で採用された。その後、2年契約を2度結んだが、その間、成果がなければ直ちに職を失いかねないプレッシャーと不安のなかで研究を行わなければならなかった。そんな苦難を克服し、市販化という大きな成果をもって2008年8月、晴れて正社員として採用された。

 研究の日々は辛かったという。後輩たちには就職を勧めている。博士号を取得しても何万、何十万人が正規雇用されない厳しい現実を指摘し、「就職のチャンスがあればすぐにした方がいい」と助言するのだという。

 研究の苦労や困難を知るため、「成せば成る」とは決して言わない。厳しい現実だけを投げかける。

 「自分は将来何がしたいのか? と常にゴールを描き見つめることが大事。目標がはっきりしないままでは前には進めない」

 現在、妻と子の3人暮らし。職場の関係上、周囲に在日同胞がほとんどおらず、住まいの近くには朝鮮学校もない。子どもの教育が心配の種だ。

 「目指すものによっては朝鮮学校に行くことが遠回りになることもある」。だが、自分のルーツを知り、民族の言葉と歴史、文化を知らなければ、足場もこしらえられないしゴールも見えない。「やはり、ウリハッキョで学んでこそ備わるものだ」。(李泰鎬記者)

[朝鮮新報 2009.1.13]