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エッセイ 微熱の原因

 2月の始めに3日間続いた微熱の原因が、今日はっきりした。芸術発表会だ。

 日本の保育園から中大阪朝鮮初級学校の幼稚班に編入して初めての発表会だった。保育園ですでに体験済みなので、御手の物と思ったがそうではなかったのだ。園児の出番は3回。歌と楽器演奏、マジックそして全校生徒と一緒にフィナーレ。

 歌と演奏は各2曲。ウリマルで身振り手振り歌うのは大変だ。だが躓かずはっきり歌った。パジチョゴリの姿が初々しく目頭が熱くなった。楽器も堂々と演奏した。大きな拍手を送りながら「ようあそこまで指導するわ! 先生一人で?」と、思わず疑問を投げた。

 2回目は「ちびっ子マジシャン」。家に持ち帰ったプログラムを見た時に「何するの」と聞いたら、「先生と約束したから言えへん」と、答えた長男だ。さて何を見せてくれるのやら。キラキラ光るラメ紛いの衣装で舞台に立った園児を見て、「どうか成功しますよう、神さん守ったってや!」と、思わず神頼み。自分がするでもないのに緊張した。

 無色透明の水が入った3本のボトルにハンカチをかける。種がばれないように小さい手で一生懸命だ。ハンカチを取ったら液は赤、黄、緑に変わった。会場は笑いと拍手。次は空パックから緑、黄のハンカチを出す。年下のトンムが一寸照れたので、ヒヤヒヤの演技。でも無事終えた。クライマックスでは等身大の黒い箱が登場し、中の人物が女の子と男の子に入れ替わる一大ショー。園児らのカチコチの表情に会場からは爆笑と拍手と大歓声。

 私は心の中で「あれだけ準備するのん大変や〜」と、悲鳴を上げた。芸をこなした園児も然る事ながら、教える側の苦労も考えずにはおれない。舞台の袖で見守る先生の顔ってどんなん? とつい考えてしまった。

 フィナーレでは小学生と舞台に立った。歌に合わせ園児らが鳴らす鈴の音が可愛い。でもその表情は緊張からか強張っていた。「失敗はあかんと思ってんやろ」と、勝手に長男の気持ちを解釈し、「ご苦労さん!」と惜しみない拍手を送った。

 日本の保育園では想像も出来ない演目に演技だった。まして小学生に混じってする演技だ。これは緊張する。

 ユチバンではこの時期、マラソン、冬季スイミング、そして今回の発表会が続いた。マラソンも負けたくないから猛練習した。発表会では頑張り屋の気性に火がついた。ちびっ子なりに体力、精神力、集中力を研ぎ澄ましたのだろう。

 3日間続いた微熱には気を揉んだ。病院に行くかどうか。だが、食事の量が減っただけで嘔吐も無く、これしきで病院に連れて行くのも憚れて様子を見た。針の筵に座った気分で。3日目に学校から戻った時点で熱があれば病院にと考えていたが、幸い熱は下がり食欲も戻ったので一件落着とした。が、私は一人原因を探った。繰り返しを懸念してだ。

 原因として最初に挙ったのがウリマル。その日に習ったウリマルは必ず報告する。忘れたものなら顔を歪めて悔しがり、「日本語の『いつも』はウリマルでなんていうの?」と、確認する具合だ。

 これは大変なエネルギーだがウリマルが好きだから一生懸命覚える。自分の知らなかった世界が広がるのが嬉しいようだ。

 二つ目は学校と言う環境。教室が広い、廊下は長い、運動場はバカデカイ。走る事しか知らない幼児期にこの広々とした環境は冒険心を育む格好の遊び場だ。

 張り切り過ぎたのかな?だが、どうもしっくりしなかった。これらが原因ならばもう既に発熱していた筈だからだ。

 そうこうしている内にひょっとしたら? と、三つ目の原因が浮かんだ、それが今日のこの発表会で確信を得たのだ。ここまで熟そうと頑張れば熱の一つも出るだろう。初めての発表会に備え、持ちえる力量を過分に発揮したのだろう。それで体が訴えたのだ。家ではじっとしてねと。

 体の黄信号はユチバンに通いながら青に戻った。そして今日は無事に発表会を終えた。ひたすら感謝するのみだ。

 ご褒美袋を手に楽屋に通じる階段を下りてきた長男の顔は、晴れ晴れとした「したり顔」。かつてない、いい顔だった。(金時香、中大阪朝鮮初級学校・学父母)

[朝鮮新報 2009.3.13]