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〈経済危機のここに注目-7-〉 大恐慌の可能性と今後の見通し

 リーマン・ブラザーズの破綻処理を契機に一気に世界中に拡散した金融危機のパニックは、実体経済にも波及し深刻な世界同時不況へと連鎖したが、各国政府の銀行への流動性供給や公的資金注入、大規模な景気刺激策などの政策を総動員し、危機は大底を脱したかのようにみえる。はたして経済危機はこのまま収拾されていくのだろうか。

 先行きの見えない未曾有の危機に対し、その影響と展望をみる上で、かつての大恐慌の歴史的経験はその一助になるかもしれない。

 周知のように、1930年代初頭の世界恐慌の発端となったのは、29年10月のニューヨーク株式市場をおそった大暴落だった。しかし、暴落後すぐに恐慌に突入したわけではない。大不況が世界に広まるきっかけとなったのは、その21カ月後の31年5月、オーストリアの大銀行クレジットアンシュタルトの破綻であったとされる。

 株価は29年10月の大暴落後、半年に渡り再び上昇を続けた。そして30年5月に再び暴落し、以降長いダウントレンドに入った。そして、株価指数が底を打ったのは、暴落当年の29年ではなく、実にその31カ月後の32年6月である。

 世界恐慌の始まりを30年5月の株価の反転(急落)とみるのか、あるいは31年5月のクレジットアンシュタルトの破綻にみるのかは判断の別れるところであるが、世界恐慌への突入までかなりの時間がかかったのには違いない。

米国経済、試練の時

 現在の状況を振り返ると、米国の株価のピークが2007年10月に付けた1万4000ドルであるので、その株価ピークからするとリーマン破綻まで12カ月かかっており、株価のダウントレンドはいまだ続いている。米国の株価が底を打つのは2010年台の半ばだとする見解が少なくないが、日本はバブル崩壊で、株価は3万9000円から2003年の底値7600円まで実に2割の水準まで落ちた。同様に考えればニューヨーク・ダウの高値1万4000ドルの2割と見て3000ドルまで落ちてもおかしくない。日本の株価下落は、日本一国だけの問題で済んだが、今回は世界中が同時株安に陥っており、この影響はすさまじく大きい。そのうえ日本のバブル崩壊と決定的に違うのは、日本は企業が巨大な借金を負ったのに対し、米国は家計が巨大な借金を負ってしまったということと、「証券化」を通じて世界中の「投資家」という第3の当事者を巻き込んで金融危機を招いたことである。したがって、この解決には時間がかかる。

 ましてや、経済危機の根源をなす米国経済の混乱はとても全治2〜3年では済まないであろう。これまで膨らみ放題膨らんでいた米国の消費はGDPの70%まで膨張している。

 家計は今、可処分所得を3割も上回る借金を負っている。これを返済し、身の丈に合った生活に戻る一方で、金融機関をはじめ企業は過剰債務を圧縮、家計も企業も健全化へ「チェンジ」することを世界が迫っている。

 家計は急速に借金を返し、貯蓄を増やしていかなければならない。これを是正する過程はかなりのリスクも伴う。家計の緊縮財政は、消費を押し下げ、米国の購買力(輸入)を急減させる。財政政策においても、歳出削減の緊縮財政の道が不可欠である。米国が財政・金融の超緊縮策をとった場合、外需依存で成長していた日本や中国などの国は壊滅的な影響を被る可能性が高い。米国の不均衡是正も後に引けない問題である。だが、それは世界恐慌への道でもある。

 大手金融機関の経営破綻もさることながら、実体経済においても、GMなどの大手自動車産業をはじめ相次ぐ大手企業の経営危機、500万を超える雇用減少など、次々と表面化しつつある危機的様相を直視するならば、世界恐慌の回避と言える状況にないことは確かであろう。かつて日本の金融危機(1997年にはじまった)を振り返ると、実体経済の悪化に歯止めがかからなくなるという本当の危機はむしろこれから始まる恐れがある。

 周知のように、米国自動車産業のビッグ3と呼ばれているクライスラーはついに自力再建を断念した。うわさによると、GMのチャプターイレブン(米連邦破産法11条)申請ももはや不可避だと言われているが、もしそうなれば米国はもちろん、世界の製造業をはじめ実体経済への影響は計り知れない。

いずれにせよ、米国経済はこれから相当な試練の時を迎えることは否めない。

 かつて米国頼みだった世界経済がそれに耐えるだけの余力をいかに保てるかが鍵となるであろう。(池永一、朝鮮大学校社会科学研究所所長)(完)

[朝鮮新報 2009.5.11]