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〈万華鏡−4〉 固有語の重要性について

3分の1が接する英語

 世界にはおよそ3500の言語があると言われている。言語学的には12個の語族に分類されている。

 朝鮮語は5000年の歴史を持つ朝鮮民族固有の言語であり、どの語族にも属さない孤立語とされている。日本語もまた、朝鮮語と同じ孤立語に分類されている。

 言語人口を見た場合、一番多いのは英語である。ちなみに朝鮮語は15位、日本語は11位となっている。

 英語の母語人口は3億5千万人だが、公用語人口は14億人であり、外国語として英語を習っている人まで入れると、人類の約3分の1が何らかの形で英語と接していることになる。

 英語は、5世紀にゲルマン民族(アングロ、サクソン、ジュートなど)がブリテン島に侵入した時から、その歴史が始まった。侵入者数が一番多かったアングロ族の国という意味で、イングランドと呼ばれるようになった。

 英語はインド・ヨーロッパ語族に分類されていて、ドイツ語、フランス語、イタリア語なども同じ語族に属している。

 これらの言語は歴史をさかのぼっていくと、一つの祖語、インド・ヨーロッパ祖語にたどりつく。紀元前5000年頃、ヨーロッパ東南部で遊牧民たちが話していたと、理論上推定される言語である。

 紀元前3500年頃から彼らは拡散し、インドからヨーロッパにひろがる広範囲な地域に移動した。それに伴い彼らの言語も個別に発達していったと考えられている。

 ゲルマン民族の一言語であった英語が、今日、国際語や地球語と言われるほどになった外的要因の一つは、言うまでもなく英国の植民地膨張にあるが、英語という言語自体の内的要因も多い。

 その一つは、語彙が豊富だということにある。英語は60万語という世界最多の語彙数を持つ言語であり、借用語の分布も世界一なので、外国語学習者にとって親しみやすいようだ。

 語彙数が多い理由は、何よりもアングロ・サクソン民族の歴史そのものにある。彼らは英語史の最初期から常に諸民族と接触してきた歴史的経緯によって、必然的に多量の外国語が英語に流入し、語彙を増加させた。

 次に、英語が借用語に対して常に寛容であったこと、そして、外来の造語要素までも利用して新しい言葉を活発に創造し、語彙を豊かにしてきたことにある。

言葉は民族の魂

 英語の約55%が借用語であるというが、なかでもとくにフランス語からの借用語が多い。それは300年に及ぶノルマン征服とその後の英仏の多方面に渡る接触交流の結果である。

 ノルマン征服下でのブリテン島の公用語はフランス語であったが、英語は庶民の言語として力強く生き残っていた。

 それを端的に表しているのが、動物名とその肉の呼称が違うこと。例えば、動物名は「cow」「pig」であるが、食用肉になるとそれぞれ「beef」「pork」となることが挙げられる。動物を飼育し料理するのは庶民の英国人だったので、自分たちの言語である英語で「cow」「pig」と呼んだが、その料理を食べるのは支配階級のフランス人であったため、皿の上の肉を仏語の牛と豚を意味する「beef」「pork」と呼んだのである。

 英国人たちは英語の自主性を守り、英語本来の特性を生かしながら借用語を積極的に取り入れ、語彙を豊富にしてきた。英語に類義語が多い所以である。しかし英国人の生活に密着し、思考の基本になっているのは、やはりゲルマン語起源の言葉、英語の固有語である。英国人は固有語に対して、個人的で生き生きとした、そして強い感情を持った語彙と捉えている。

 一方、ロマンス語系(ラテン語、フランス語)の語彙に対しては、非個人的で冷静、熟練、重厚と捉えている。例えば、「質問する」は「ask−question−interrogate」、「時代」は「time−age−epoch」と3種類の類義語があるが、最初が固有語、2番目が仏語、最後がラテン語起源の語彙である。固有語は生活用語、口語として、フランス語は文語、ラテン語は学術用語と使い分けられている。

 60万語の語彙があるとはいえ、英国人たちの普段の生活用語は3000語ほどだと言われている。基本語彙850語で十分に生活できるという学者たちもいる。そのほとんどが固有語または固有語に近い借用語である。

 長い歴史を通して英国人は、文化的に原初のケルト、ゲルマン、ラテンというヨーロッパを代表する諸文化を吸収し、民族的にはこれらの血がほどよく混ざり、いわば「ヨーロッパ文化の総合」といえる文化を築いてきた。

 しかし、英語を人間の体にたとえると、骨格にあたる部分にゲルマン語、手足にあたる部分にロマンス語があると言われているように、基本はゲルマン起源の固有語である。

 言葉にはその民族の魂が宿っている。それゆえ日本で暮らす在日朝鮮人たちにとって、朝鮮語、とくに固有語をしっかり習い生活用語として使うことは、朝鮮民族の魂を感じとるうえでとても大事なことなのである。

 最後に、総連の故韓徳銖議長が朝鮮大学校を訪れた際、よく学生たちに言っていた言葉を紹介する。

 「歴史を知らねば守れない、地理を知らねば愛せない、言葉を知らねば感じられない」(韓慶姫、朝鮮大学校外国語学部准教授)

[朝鮮新報 2009.6.29]