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〈虫よもやま話-13-〉 全速力

 (早く渡れ!車に轢かれたらどうするんや!)

 ある日のことです。

 私がリトルカブにまたがり信号待ちをしていると、左端から横断歩道を渡りきろうとする「毛虫」がいました。その毛虫は私より沢山の肢を具えながらも、この全速力では到底青信号の点灯時間内に横断できそうにありません。

越冬するアゲハチョウの蛹

 (もっと安全な場所を通ったらええのに〜…)

 しかし、彼らにとって冬を迎えるこの時期は大きな決断の時、移動の時期だったのです。

 一般的にどれほど多くの昆虫の卵が無事に成虫まで育つのかご存知でしょうか? もちろん正確には言えませんが、平均するとわずか1.8パーセントくらいだと言われています。単純な例ですが、1匹の雌が200個の卵を産んだとしても、わずか3〜4匹程度しか成虫にはなれません。

 特に幼虫の時期に病気やカビに加え、アリ、クモ、そして鳥などによる捕食と、寄生性のハチやハエ類によってそのほぼ半数以上が命を落とします。そんな中で偶然生き残れた幼虫は、より安全な場所で蛹になるためにこのように移動を始めるのです。

 ここで大切なことは「どこで蛹になるのか」という問題です。

 環境の変わりやすい場所や気温変動の激しい場所、天敵に見つかりやすい場所などを選ぶと必然的に成虫になれる確率は低くなります。しかし、多くの場合そのような失敗を避けるために、目立たない石の裏や樹木の隙間、民家の壁など、時には周囲の環境と自らの体色を調節しながら蛹になります。

 そして蛹は羽化する最適な時期を見定めるために常に外の環境をうかがっているのです。羽化時期の判断ミスはすなわち、命を落とすことを意味します。

 (うわ! 失敗した! もう一回蛹か〜ぶろ!)っていうことは、もちろんできませんからね(笑)。

 本当に一つひとつの選択、一つひとつの行動が命がけの真剣勝負なのです。

 さ〜、2009年が始まりました。こんな昆虫たちに負けないように、今年1年を更に全速力で駆け抜けたいと思います。

 …え? あの毛虫はどうなったかですって?

 もちろん、私と研究室まで仲良く「二人乗り」、今年もこんな「私たち」をどうぞよろしくお願いいたします。(韓昌道、愛媛大学大学院博士課程)

[朝鮮新報 2009.1.16]