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〈検証 オバマ外交 新政権の対朝鮮政策-上-〉 直接対話、特使派遣にも言及

ブッシュとの決別? 継承?

 バラク・オバマ氏が1月20日(現地時間)、米国の第44代大統領に就任した。米国史上初のアフリカ系大統領として「新たな責任の時代」を強調し「米国の再建」を呼びかけた新大統領は、世論の高い支持を背景に国政運営をスタートさせた。「オバマ・ユーフォリア」が世界を包む一方で、新大統領が標ぼうする「変革」がすんなりと実行されるかは不透明だ。政権の前途には内外の懸案も山積している。朝鮮半島核問題をはじめ外交・安保分野の政策で「チェンジ」はあるのか。オバマ外交の基調、対朝鮮政策のスタンス、朝米関係の展望などについて2回に分けて見る。

「負の遺産」を清算

オバマ政権の主な外交・安保問題担当者
国務省
ヒラリー・クリントン長官 上院議員、クリントン元大統領夫人
ジェームズ・スタインバーグ副長官 クリントン元大統領副補佐官(国家安全保障担当)
ウィリアム・バーンズ次官 留任
カート・キャンベル次官補(東アジア・太平洋担当) 新米国安保センター所長、クリントン政権時代の国防副次官補(東アジア・太平洋担当)
ホワイトハウス
ジョセフ・バイデン副大統領 上院議員、上院外交委員長
ジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当) NATO軍最高司令官
国防総省
ロバート・ゲイツ長官 留任

 大統領就任式の直後、国政アジェンダの概略がホワイトハウスのホームページに発表されるなど、新政権の政策の輪郭は次第に明らかになりつつある。対外政策と関連した部分の冒頭には、「米国の安全保障を回復し、新たな時代の米国の指導力を通じて世界に存在感を示す」という目的が掲げられた。そしてイラク、アフガニスタン、パレスチナ問題、核兵器および核物質の拡散防止などを主な課題として挙げた。

 また、「米国外交の再生」を宣言し、「すべての国とのタフで直接的な外交」「同盟の強化」などを打ち出している。

 オバマ大統領はイラク戦争をはじめとするブッシュ外交への「アンチテーゼ」を旗印に登場した。新政権の対外政策はブッシュ時代の「ネオコン」(新保守主義)、単独行動主義に対する批判的側面が色濃いが、決して全否定はしていない。オバマ外交はブッシュ外交の否定と継承という両面から考察する必要があるだろう。

 オバマ政権は発足直後から「ブッシュとの決別」を意識した政策を打ち出している。

 大統領は就任2日目の1月22日、キューバ・グアンタナモ基地内にあるテロ容疑者用の収監施設を1年以内に閉鎖し、拷問を禁止することを大統領命令第1号として発表した。人権侵害で悪名高い同収容所を閉鎖することで、前政権時代の負の遺産を清算し、米国の「国際的指導力」と「道徳性」を回復しようという思いが強くにじむ。

 軍事力偏重のブッシュ外交との違いで引き合いに出されるのが「スマート・パワー」だ。「スマート・パワー」とは、2007年、アーミテージ元国務副長官や駐日大使就任が取りざたされるナイ元国防次官補らが提唱した概念。「軍事力だけでは長期的に米国の力を維持することは不十分」との認識に基づき、軍事力や経済力などの「ハード・パワー」と文化や価値観などの「ソフト・パワー」を組み合わせたものだと定義している。その目的は「米国の影響力を拡大し、行動の正当性を確立すること」にある。オバマ大統領の「多国間協調主義」もその戦略に沿ったものだ。

 一方、前政権からの継承も多くの面で見られる。「対テロ戦争」の継続、中東政策における「イスラエル一辺倒」のスタンスなどが代表例だ。

 軍事力に対する強いこだわりにも変化はない。米国の覇権を維持し続けるために軍事力の強化を図る姿勢を鮮明にしている。

 また、大統領就任演説や各種の文書からは、自由民主主義や市場経済など米国的価値観や理念を全世界に広めていくという対外政策上の一貫した基本路線が浮かび上がる。

新たなアプローチ

 では、新政権の対朝鮮政策はどうなるのか。外交・安保分野を担当する高官らは朝鮮半島核問題の解決に意欲を見せている。

 2000年、クリントン政権末期の共同コミュニケ発表を機に朝米両国は敵対関係清算、関係正常化に向けて大きく動いた。

 しかし翌年に発足したブッシュ政権は朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、先制核攻撃の対象にするなど前政権の路線を全否定し、強硬一辺倒の政策を推し進めた。

 これに対して朝鮮は国の自主権を守るために06年10月、地下核実験を断行。窮地に陥ったブッシュ政権は、二期目の後半に入って従来の姿勢を転換し、朝鮮側との対話に乗り出した。

 オバマ政権も対朝鮮外交に関して、第2期ブッシュ政権後半の対話路線を大枠では引き継ぐものと見られる。もちろん、圧力という後ろ盾を維持することに変わりはない。

 新政権の外交・安保分野の陣容(別項参照)は「中道、現実主義的」と評される顔ぶれになった。クリントン政権時代の人脈を大挙登用したことが目立つ。一方、要所要所にはブッシュ政権の人材も取り込んだ。

 国務省の対朝鮮外交はヒラリー・クリントン国務長官以下、ジェームズ・スタインバーグ副長官−ウィリアム・バーンズ次官−カート・キャンベル次官補というラインで進められることになる。朝鮮担当特使ポストの設置も取りざたされている。

 新政権の対朝鮮政策の基調には、オバマ大統領自身の発言からもうかがえるように、ブッシュ前政権の強硬政策が破綻に直面し米国の東北アジア外交と核戦略上の利益を大きく損ねたという教訓がある。

 オバマ氏は選挙期間中の昨年9月、共和党マケイン候補とのテレビ討論会でブッシュ政権の8年間の外交を「大きな失敗」と断じ、対朝鮮外交をその代表例として挙げた。「無対話・無関与政策は北朝鮮の核兵器保有数を増やしただけの政策」という指摘だ。

 また、大統領選に立候補を表明した当時から、「直接対話だけが危機打開に向けた最善の策」(07年2月10日)と主張してきた。自身も「敵対国家と前提条件なしの対話に応じる」とし、「朝鮮側の最高指導者とも会う用意がある」との立場を表明した。

 「国益にかなうなら、敵対国とも直接外交で問題を解決する」というスタンスは、朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、最高指導者を誹謗中傷したブッシュ政権初期とは明らかに異なる。

 一角には新政権発足後、朝鮮半島核問題の優先順位が下がるのではという見方もあるが、クリントン国務長官は核問題に対して「差し迫った問題として対処していきたい」と述べ、6者会談とともに「北朝鮮との直接外交を進めていく」との立場を示した。また、6者会談についても、「問題解決に有用な枠組み」だと評価した。(1月13日、上院外交委員会の聴聞会)

 国務省のロバート・ウッド副報道官は23日、オバマ政権が対朝鮮政策の本格的な再検討に入ったことを明らかにし、この作業を可能な限り早く終えたいと述べた。

 オバマ政権が対朝鮮政策においてブッシュ政権時代の対話の枠組みをそのまま踏襲するのか、高位級の特使派遣など、より次元の高いアプローチをとるのかに注目が集まっている。(李相英記者)

[朝鮮新報 2009.1.30]