top_rogo.gif (16396 bytes)

米国務長官のアジア歴訪 朝鮮側の対応に注目

平壌に向け「間接メッセージ」

 ヒラリー・クリントン米国務長官が2月16〜20日まで日本、インドネシア、南朝鮮、中国を訪れた。就任後、初の外国訪問となった今回のアジア歴訪を通じて、オバマ新政権の外交姿勢の一端を世界に示した。一連の会談ではさまざまな外交上の懸案が取り上げられたが、朝鮮半島核問題もそのうちの一つだ。平壌訪問こそ実現しなかったが、長官の発言には明らかに朝鮮側を意識したものが多く見受けられた。朝鮮側も米国務長官の言動を注意深く見守ったと思われる。

朝鮮特使の任命

 今回のアジア歴訪では、世界的な経済危機への対応策など喫緊の課題に重点が置かれた。東京とソウルでは、第2期ブッシュ政権の末期に表面化した対朝鮮外交をめぐる同盟国間の不協和音を調整することにも力を割いた。東京では拉致被害者家族と面会した。米国内の世論を意識したのかクリントン長官は、自国メディアを通じて「北朝鮮に譲歩しない政権」を印象づけるような発言も行った。

 今回の歴訪でとりわけ注目を浴びたのはソウルでの記者会見だった。クリントン長官は、スティーブン・ボスワース元駐南朝鮮大使を新政権の朝鮮担当特使に任命したことを明らかにした。

 オバマ大統領は就任直後、中東担当特使とアフガニスタンおよびパキスタン担当特使を指名。各特使はすでに担当地域を訪問するなど活動を始めている。しかし唯一、朝鮮問題担当特使については口を閉ざしてきた。

 朝米関係の急速な進展を好ましく思わない日本と南朝鮮は、オバマ政権が朝鮮担当特使を置くという観測が流れると、特使の早期平壌訪問に反対の立場を早い時期から示唆してきた。

 ボスワース元大使はすでに2月初旬、民間代表団のメンバーとして平壌を訪問。朝鮮側の外交当局者や軍の関係者らと面会した。クリントン長官は東京とソウルで特使任命の経緯を直接説明し、公式発表する手順を踏んだ。

 しかしソウルでの会見は、もうひとつの効果を計算した舞台だったともいえる。クリントン長官は、対朝鮮外交には「強力なリーダシップ」が必要であり、ボスワース特使が自身の活動について「私だけでなくオバマ大統領にも直接報告することになる」と発言。実務レベルにとどまらない特使の役割と地位を強調した。ソウルでの特使任命発表は、平壌を念頭に置いたメッセージの意味合いもある。

朝米の駆け引き

 クリントン長官は今回、対朝鮮政策について目下「検討中」だと語ったが、朝米間の駆け引きはすでに始まっている。

 朝鮮側はオバマ政権発足に先だって、「自主権尊重と関係正常化を通じた朝鮮半島の非核化」を強調した。「朝鮮側が核を放棄しない限り関係正常化は不可能」というクリントン長官の発言(1月13日、米上院の聴聞会)に対し、「米国による核の脅威がある限り、朝鮮の核保有国としての地位は変わらない」(1月17日、外務省スポークスマン)と釘をさした。

 クリントン長官はアジア歴訪前にニューヨークで演説。「行動対行動」の原則に基づいた包括的な問題解決のプロセスを再度強調し、朝鮮側が核放棄を断行する「準備」があれば、オバマ政権は「両国関係を正常化し朝鮮半島の停戦体制を平和条約に転換する用意がある」と発言した。

 「ブッシュ政権の失敗」に言及したことも注目される。ブッシュ政権末期の政策を引き継いで6者会談と朝米直接対話を並行させる立場を表明したクリントン長官は、前政権が「ウラン濃縮疑惑」を口実に94年のジュネーブ枠組み合意を破棄すべきではなかったと批判した。

 8年ぶりとなる民主党政権が「朝鮮の核兵器保有」を自身の外交政策樹立の前提にしていることは明らかだ。

根深い不信感

 クリントン長官初の外国訪問は、前政権の路線を引き継ぐオバマ政権の対朝鮮外交姿勢を関係国と共有する機会になった。

 ブッシュ前政権は朝鮮を「テロ支援国家」指定から解除し、敵視政策転換の第一歩を踏み出した。新国務長官の「微笑外交」は、オバマ政権が対朝鮮外交を本格的に進めるための足場固めだったともいえる。

 一方で、今回の訪問では無難な外交的言辞が目立った。米国側はいまだ実際の行動を起こしてはいない。平壌に向けた間接メッセージが今後、朝鮮側のどのような反応を呼び起こすのかも未知数だ。

 クリントン長官は今回、「長距離ミサイル発射」問題にあえて言及し、朝鮮側に「挑発的な行動と発言を自制」することを呼びかけた。朝米関係はいまだ交戦状態にある。3月には米国と南朝鮮による合同軍事演習が実施される。長官の発言は、朝鮮に対する米国の軍事的な圧力が日増しに増強されている現実から目をそむけているとの批判をまぬがれない。

 現在、朝鮮半島情勢は北南間の政治・軍事的対決など緊張の度合いが高まっている。米国の好戦勢力に追従する南朝鮮の保守強硬派による挑発も考えられる。

 言動が一致しない米国の姿勢に対する朝鮮側の不信は根深い。(金志永記者)

[朝鮮新報 2009.2.27]